見えない糸

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見えない糸

「それで? 結局、何が言いたいの?」 昔から、智也はこの叔母が苦手だった。父の1番下の妹だが、強烈なオーラを纏った人で、相手が誰であろうと、自分の思っていることをズバズバと口にするし、瑞希も嘆いていたが、基本、人の話はちゃんと聞かない。 「ええ。ですから俺は」 「瑞希。あんたはどうなの? 智也くんのとこに行きたいの?」 瑞希はさっきから身体ごと斜めを向いて、母親と目を合わせようともしない。 叔母はイライラした顔で瑞希を睨んでから、智也の方に向き直り 「この子がちょっと特殊な趣味だってことは、智也くんは知ってるのね?」 「特殊な趣味って、なんだよ、その言い方」 「あんたは黙ってて。智也くん? 君はそれを承知で瑞希を預かってくれるのね?」 早口な叔母が、ひどくゆっくりと念を押してくる。智也は真顔で頷いて 「ええ。瑞希くんからきちんと話は聞いてますから。それに俺は、別に特殊なことだとは」 「だったらお願いするわ。もちろん、かかった費用は言ってくれれば全部出します。智也くんさえよかったら、瑞希をしばらく預かってちょうだい」 叔母はせっかちに遮って結論を出すと 「瑞希。自分のことは出来るだけ自分でしなさい。智也くんのお仕事の邪魔にならないようにね」 ひどくあっさり出た結論に驚いたのか、瑞希はここに来て初めて、自分の母親に顔を向けた。 「反対しないの? え。母さん、いいの?」 「別に反対はしないわ。あんたがそうした方がいいと思うんならね。でもひとつだけ聞いておく。亨くん……だっけ? あの子とのこと、今後あんたはどうしたいの?」 「どう……したいって……」 「あんたがその子との関係を続けたいなら、お母さん、あんたとはもう関わりたくないの」 叔母の言葉に、瑞希の顔が歪む。智也は慌てて身を乗り出した。 「叔母さん、待ってください。その件はまだ」 「智也くんは黙ってて。これは私と瑞希の問題なの」 「関わりたくないって……親子の縁を切るってこと?」 「切るって言って簡単に切れるもんじゃないわ。あんたはまだ学生で未成年だしね。でも、出来れば母さん、お弟子さんたちへの手前もあるから、この件であんたとこれ以上関わるのはごめんなの」 瑞希はきゅっと眉を寄せた。 「それってつまり、僕にあの家、出てけってこと?……だよね?」
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