見えない糸

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叔母はカップを持ち上げてコーヒーをひと口啜ると、静かにソーサーに戻し、ふうっと吐息を漏らすと 「お母さんね、あんたの……同性愛っていうの? 信じたくないし、認める気はないわ。自分の息子が……男とあんなことしている写真見せられて、平気な母親なんていると思う?」 瑞希は母親からぷいっと顔を逸らした。 「叔母さん、待ってください。それは瑞希くんが悪いわけじゃない」 叔母は、黙っててと言いたげに、ジロっとこちらを睨んだが、何も言わなかった。 瑞希の話だと、叔母がその写真の束を送り付けられて見てしまったのは、一昨日のことだ。 当然、動揺もしているだろうし、気持ちが落ち着くには時間も必要だろう。 「叔母さん。その件も含めて、瑞希くんとはじっくり話をするつもりです。亨くんのことで、瑞希くんだって混乱している。だから今はまだ、結論を出すのは待ってくれませんか?」 叔母は唇を噛み締め、そっぽを向いてしまった瑞希と自分を交互に見ると、深いため息をついた。 「……わかったわ。たしかに私にも、頭を冷やす時間が必要だわね。ただ、智也くん。君はいいの? 君だって気の抜けない仕事しているんでしょ? 瑞希のことに関わってる暇なんかあるの?」 智也はにっこり微笑んで 「大丈夫ですよ。もちろん、俺は独身だし仕事もしてるから、瑞希くんの世話を四六時中出来るわけじゃない。俺は俺の出来る範囲で、協力出来ることをするだけですから」 叔母は少し表情を和らげると 「そう。じゃあこの件は、智也君に任せる。面倒かけるけど、うちのバカ息子のこと、よろしくお願いね」 智也はほっとして頷いた。 「あ。じゃあ、瑞希君の荷物、これから運び出してもいいですか?」 「ええ、悪いけどお願い。瑞希。あんた知らんぷりしてないで、智也くんを自分の部屋に連れていって」 瑞希は母親の方は振り返らずに、のろのろと椅子から立ち上がり、リビングを出て行く。智也は叔母に会釈すると、瑞希の後を追いかけた。
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