見えない糸

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階段をあがった所で、瑞希がぴたっと足を止めた。智也は危うくつんのめりそうになって 「わ。どうしたの、瑞希く」 「智くんっ」 瑞希がくるっと振り返って抱きついてきた。 「ごめんなさい」 「え? いや、どうして君が謝るの」 「言いにくいこと、言わせて、ごめんなさい」 「瑞希くん……」 智也は、瑞希の身体をぎゅっと抱き締めると 「君の部屋に行こう」 言いながら、身体を押すようにして歩き出した。こんな所では、リビングにいる叔母に聞こえてしまう。 部屋に入ると、智也はドアを閉めて、瑞希の身体を抱き締め直した。 「はい、いいよ。思いっきり泣いても」 瑞希は胸元からひょこっと顔をあげた。その目は既に真っ赤になって、涙が滲んでいる。 智也は瑞希の背中をあやすようにぽんぽんっと軽く叩くと 「叔母さんの言葉。今は真に受けないであげようね、瑞希くん。君と同じように、叔母さんだってすごく混乱しているんだよ」 「母さん……呆れてる。僕のこと、きっと、軽蔑してるんだ」 「うーん。そうかな。俺の目には叔母さん、君のことをすごく心配しているように見えたよ」 智也の言葉に、瑞希は目を見開いた。 「……ほんとに?」 「ああ。叔母さんね、きついこと言っていたけど、手を何度も握ったり閉じたりしていた。きっと君のことが心配で、やきもきしているんだね」 瑞希は大きな目をこぼれんばかりに見開いて、何か口をもごもごさせたが、すぐに力なく目を伏せると 「でもきっと、わかってくれない。僕の気持ちなんて」 智也は瑞希の肩を抱くようにして、ベッドの端に連れていき、一緒に腰をおろした。 「たしかに。簡単にはわかってもらえないだろうな。瑞希くん、君は叔母さんにとってたった一人の子どもだし、お父さんも早くに亡くなっているからね。叔母さんは君がゲイだと、あんな形で知ってしまったわけだから……なかなか受け入れるのは難しいよね」
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