第1章 舞い降りた君

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一気に縮まった憧れの少年との距離に、智也の心臓はどきどきしっぱなしだ。 胸焼けしそうに甘ったるい気分なのは、さっき食べた生クリームのせいだけじゃないのだろう。 ……このシーン。後で小説につけ足しておこう。 趣味で書いている恋愛小説を思い浮かべた。智也は幸せな気分で、心の中にそっとメモ書きしてみる。 「里沙みたいな優しいお姉さんがいて、羨ましいよ」 祥悟はスプーンを空中で止めて、うーん……と首を傾げた。 「まあね、里沙はほんと可愛いし優しいよ。でもさ、双子の姉ってのがやだ。あいつが兄貴だったら……良かったのにさ」 智也はふふっと笑って 「お互い、ないものねだりだよね」 祥悟はため息をつくと、スプーンに山盛りにしたプリンとアイスを、再び智也に突き出した。 「食う?」 智也は首を竦めて 「いや、もう勘弁。君が食べて」 祥悟は不満そうに鼻を鳴らすと、スプーンをUターンさせて、ぱくっと口に入れた。 「そんなに兄貴が欲しいなら、俺が君の兄貴になってやるよ」 何気ない感じで呟いた智也に、祥悟は再び食べる手を止めて、じっと智也の顔を見つめ 「智也が兄貴かぁ……」 まるで品定めするように、上から下まで見てから、返事はせずに、またパフェに向かってしまう。 ……どさくさ過ぎたかな。 今日をきっかけに、もうちょっと祥悟と距離を縮めてみたい。なんて、つい思ってしまった。 智也が言ったことを後悔し始めた時、祥悟が呟いた。 「いいよ。智也なら。俺、いろいろ話せる兄貴、マジで欲しかったし。智也なら……いいよ」 ……うわ……。 思いがけない祥悟の返事が、頭の中でリフレインする。
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