見えない糸

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「智くん。行こう」 瑞希が腕を掴んで促してくる。智也は祥悟が先に外に出たのを確認してから、瑞希の耳元にそっと囁いた。 「さっきの話、瑞希くんは何も言っちゃダメだよ」 瑞希はこちらをじっと見上げて、ちょっと不満そうな顔をしたが 「うん。僕は余計なこと言わないよ。智くんが、ちゃんと自分で言わないと、だもん」 小さくため息をついて頷くと、先にドアの方へ向かう。 智也はその後ろ姿を見ながら、緊張に強ばっていた身体を弛緩させた。 ……なんだろう。すごく……疲れたな。 今にも飛びかかってきそうだった祥悟の機嫌が、何故急になおったのか……いまひとつよく分からない。 やっぱり瑞希の物怖じしない素直な性格のおかげだろうか。瑞希は意外と祥悟と相性がいいらしいから。 先にさっさと歩いていく祥悟を追いかけて、彼専用の控え室に辿り着いた。 このスタジオは貸切のシェアスペースで、普段は撮影用と言うより、期間限定のカフェや飲食店として使われていることが多いらしい。 祥悟の控え室は1番奥の、個室タイプの客室だった。 「わ。思ったより広いっ」 物珍しそうに室内を見回して、感嘆の声をあげる瑞季に、祥悟はにやりとして 「ここは特別だぜ。もっと狭くてこ汚ねえ場所もあるんだよ」 瑞季は部屋の奥のソファーにぽふぽふと手をあてて 「凄いなぁ。このソファー、ふかふかだ」 「座って寛いでれば? 何か飲み物持ってきてやるよ」 「えっ。いやいや、祥悟さんこそ座っててください。せっかくの休憩時間なんだし」 「いいよ。2人ともここにいて。俺が頼んでくるから」 祥悟が来客に飲み物の気を遣うなんて……ちょっと驚きだった。 智也は、部屋を出て行こうとする祥悟を手で制して、いったん外に出た。
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