248人が本棚に入れています
本棚に追加
「智くん。行こう」
瑞希が腕を掴んで促してくる。智也は祥悟が先に外に出たのを確認してから、瑞希の耳元にそっと囁いた。
「さっきの話、瑞希くんは何も言っちゃダメだよ」
瑞希はこちらをじっと見上げて、ちょっと不満そうな顔をしたが
「うん。僕は余計なこと言わないよ。智くんが、ちゃんと自分で言わないと、だもん」
小さくため息をついて頷くと、先にドアの方へ向かう。
智也はその後ろ姿を見ながら、緊張に強ばっていた身体を弛緩させた。
……なんだろう。すごく……疲れたな。
今にも飛びかかってきそうだった祥悟の機嫌が、何故急になおったのか……いまひとつよく分からない。
やっぱり瑞希の物怖じしない素直な性格のおかげだろうか。瑞希は意外と祥悟と相性がいいらしいから。
先にさっさと歩いていく祥悟を追いかけて、彼専用の控え室に辿り着いた。
このスタジオは貸切のシェアスペースで、普段は撮影用と言うより、期間限定のカフェや飲食店として使われていることが多いらしい。
祥悟の控え室は1番奥の、個室タイプの客室だった。
「わ。思ったより広いっ」
物珍しそうに室内を見回して、感嘆の声をあげる瑞季に、祥悟はにやりとして
「ここは特別だぜ。もっと狭くてこ汚ねえ場所もあるんだよ」
瑞季は部屋の奥のソファーにぽふぽふと手をあてて
「凄いなぁ。このソファー、ふかふかだ」
「座って寛いでれば? 何か飲み物持ってきてやるよ」
「えっ。いやいや、祥悟さんこそ座っててください。せっかくの休憩時間なんだし」
「いいよ。2人ともここにいて。俺が頼んでくるから」
祥悟が来客に飲み物の気を遣うなんて……ちょっと驚きだった。
智也は、部屋を出て行こうとする祥悟を手で制して、いったん外に出た。
最初のコメントを投稿しよう!