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祥悟の瑞季に対する特別対応が、ほっとするのに何故か少し……複雑な心境だった。
祥悟と2人きりになるのは、正直、今の自分には辛い。明るい瑞季の存在はすごく助かるのだ。
でも……やはりちょっともやもやする。
……いい加減にしろよ。瑞季くんにまでヤキモチか? 情けないにも程がある。
スタッフが用意している飲み物があるはずだが、智也はあえてスタジオから出て、すぐ隣の建物の前にある自販機で3人分の飲み物を買った。
さっきの洗面所での動揺をまだ引きずっていた。瑞季に言われた言葉が、胸に棘のように刺さってチクチクする。
「言わなきゃ、何も伝わらないよ。本当に会えなくなった時に、絶対に後悔するよ」
「想いは、言葉にしなければ絶対に伝わらない。してしまった後悔よりも、しなかった後悔の方が、ずっとずっと、苦しいんだよ。痛いんだよ」
自分より歳下の瑞季が、苦しさを滲ませて言ってくれた言葉。
行動することを恐れて、独り悶々としている自分より、瑞季の方がよっぽど大人だ。
「はぁ~……」
智也は大きく息を吐き出した。
わかっている。瑞季の言うことが正しいのだ。
逃げてばかりいるのは、本当は自分が傷つきたくないからだ。祥悟に、決定的に嫌われたくない。ゲイであると知られて、あの美しい目が蔑むように歪むのを見たくない。自分を抑えきれなくなって、祥悟に軽蔑されたくない。
それでいて、諦めることも出来ないのだ。
「情けないよ……祥……。俺は、こんなにも……情けない男なんだな……」
自販機にもたれかかって、智也は空を仰いだ。
「へえ、おまえ、こういうのが好きなんだ?」
「や、ちょっと祥悟さんっ。僕のバッグ、勝手に開けないでくださいってば」
部屋に戻ると、ソファーに並んで座った2人が楽しそうにじゃれあっていた。
智也に気づいた祥悟が、瑞季の手から取り上げて頭上に掲げたバッグをひらひらさせながら、こっちを見て顔を顰めた。
「遅いじゃん。どこまで行ってたのさ?」
「ああ、ごめん。ちょっと外の空気を吸いにね」
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