第1章 舞い降りた君

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『智也なら……いいよ』 智也の頭の中には、ちょっと恥ずかしそうに目を逸らして、可愛く呟く祥悟の顔が浮かんでいる。……実際の祥悟は、智也の反応そっちのけで、目の前のパフェに夢中になっているのだが。 ……いいよって何がだ? 智也なら……の後の間はなんだよ? いやいや、落ち着け、俺。 兄貴になってやるって言っただけだろ。静まれよ、心臓。 智也はまた舞い上がりそうになる自分に必死に言い聞かせて、そっと深呼吸した。 「いろいろ、話したいことって何だい?」 「ん?」 いつの間にかパフェを完食した祥悟が、口の周りを舌でぺろんとしながら振り返った。目が合ってどきっとする智也に、祥悟はにやりとして 「智也ってさ、童貞じゃないんだよね?」 「っ」 智也は、気を落ち着かせようと口に含んだコーヒーを、思わず噴きそうになった。 「さっきのキス、すごかったもんな。あーゆーの、いっつも女としてるわけ?」 興味津々に聞いてくる祥悟と、目が合わせられない。 ……いろいろ話したいってそっち方面かっ。 「初めてエッチしたのって幾つの時?ってか、智也ってさ、今、カノジョいんの?」 2人が座ったのは、ソファータイプの椅子だから、間に仕切りがない。祥悟は智也の困惑などお構い無しで、ぐいぐいと身を寄せてきた。 ……こらこらこら。密着するなって。ここ、喫茶室だよ。人の目があるだろ? 「なあ、教えて?俺さ、意外だったんだよね。キス、ちょっと上手すぎ。智也ってストイックな感じでさ、そーゆーの慣れてそうにないじゃん?」 「ストップ。祥悟くん、ここ、どこだか忘れてる?声、大きいよ。そういう話、こんな所でしない」 声が上ずりそうになる。 ……頼むからぴったりくっついてくるの、止めてくれる? 祥悟はちぇっとつまらなそうに舌打ちすると 「じゃあさ、どっか場所変えようよ。智也の方も撮影終わってんだろ?あ。今日ってこの後、まだ予定あんの?」 ……この後?え。場所変えるって……どこに? 「いや。別にないけど。でも祥悟くん、君、家に帰らなくていいのかい?」 途端に祥悟はしかめっ面になった。 「えー。家なんか帰んねえし。折角のフリータイムだよ?どっか遊び行きたいじゃん」
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