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なんだか話が噛み合っていない気はするが、思ったよりも、祥悟と普通に会話が出来ていることにホッとした。
わざと会わないようにこちらが避けている今の状況を、祥悟の方はそれほど気にしていないようだ。
……それはそうだよな。
気にしすぎて空回りし続けてているのは、自分だけなのだ。祥悟はこちらの気持ちなんか、まったく気づいていないのだから。
そのことに、安堵している自分と、寂しさを感じている自分がいる。
コーヒーカップを持ち上げ、ひとくち啜った祥悟が、きゅっと顔を顰める。
「苦……。な、おまえってこれ、使わないよね?」
祥悟が智也のコーヒーに添えられているシュガーとミルクを指差した。
「あ。ああ、俺はブラックだからね。いいよ、使って」
「さんきゅ」
差し出すと祥悟は受け取って自分のコーヒーに2つとも入れてスプーンでかき回し、またひとくち啜って満足そうな顔をした。
……相変わらず甘党だな……。あ、そうだ。
智也は持ってきた紙袋の中から、祥悟が好きな焼き菓子を取り出した。
「これ、よかったら食べて」
「お。パルファのマフィンじゃん。食うの久しぶりかも」
祥悟の顔が嬉しそうにほころぶ。甘いものを目の前にした彼の表情は、格別に可愛らしい。この笑顔が見たいがために、智也は人に聞いたり調べたりしながら、人気のスイーツを見つけては祥悟に差し入れしていたのだ。
……3ヶ月前までは。
智也は横目でそっと祥悟の表情を窺った。
焼き菓子の包みを開けている祥悟は、とても無邪気な顔をしている。その様子は、以前と少しも変わらない。隣にいるのが当たり前だった頃と。
時間と距離を隔てても、何も変わらないのだ。
祥悟の中の自分の立ち位置も、自分の祥悟への想いも。
……なんだかもう……馬鹿馬鹿しくなってきたな。
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