見えない糸

19/33
前へ
/261ページ
次へ
離れてみたのは、自分の想いを封じる為だ。 祥悟の方に何か変化を期待してた訳じゃない。 でも……自分は無意識に期待していたのかもしれない。自分がいないことを、祥悟が寂しがってくれるんじゃないかと。 そういう自分の気持ちに気づいてしまって、余計に情けなくなった。 ー言葉にしなきゃ、何も伝わらないー 瑞季の言葉がまたよみがえってくる。 ……本当に、その通りだよね、瑞季くん。 智也はそっとため息をつくと、祥悟の方に身体ごと向き直った。 「相変わらず、忙しそうだね、祥」 「んー……まあな。おっさんがさ、例の件のペナルティだっつって、前よりガンガン仕事入れてくんの」 「少し……痩せたかい? ちゃんと食事してる?」 「おまえは俺の母親かよ? 里沙も人の顔見りゃ同じこと言ってくるし」 「彼女も、忙しそうだね」 祥悟は指についたチョコをペロッと舐めて 「おまえこそ最近、忙しいのかよ。あんま顔見せねえけど」 「うん……まあ、そこそこね」 「例のパーティさ、女性同伴じゃん? 誰のエスコートすんの?智也は」 「いや、まだ決めてないよ。祥、君は?」 祥悟はひとつ食べ終えて満足そうにコーヒーを啜ると、もうひとつ別の包みを取り上げて 「んー。里沙にしようかと思ってたけどな、アリサのやつがうるせーから」 祥悟の一言に、智也は思わず息をのんだ。 ……アリサ? 「そ。あいつがさ、自分じゃないとヤダってうるせーの」 アリサ……。 例の件で危うく大スキャンダルになりかけた相手だ。 智也は、勝気そうな彼女の顔を思い浮かべた。 彼女の嘘のせいで、祥悟は社長に殴られ顔に怪我をして、謹慎処分になっていたのだ。 あの件は彼女が祥悟の気を引くためについた嘘で、本人同士が話し合って解決済みだと聞いていた。 だが、少なからず祥悟の仕事に悪い影響を及ぼしてしまった事件なのだ。 「アリサ……って、あの娘と……まだ付き合っているのかい? 祥」
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加