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離れてみたのは、自分の想いを封じる為だ。
祥悟の方に何か変化を期待してた訳じゃない。
でも……自分は無意識に期待していたのかもしれない。自分がいないことを、祥悟が寂しがってくれるんじゃないかと。
そういう自分の気持ちに気づいてしまって、余計に情けなくなった。
ー言葉にしなきゃ、何も伝わらないー
瑞季の言葉がまたよみがえってくる。
……本当に、その通りだよね、瑞季くん。
智也はそっとため息をつくと、祥悟の方に身体ごと向き直った。
「相変わらず、忙しそうだね、祥」
「んー……まあな。おっさんがさ、例の件のペナルティだっつって、前よりガンガン仕事入れてくんの」
「少し……痩せたかい? ちゃんと食事してる?」
「おまえは俺の母親かよ? 里沙も人の顔見りゃ同じこと言ってくるし」
「彼女も、忙しそうだね」
祥悟は指についたチョコをペロッと舐めて
「おまえこそ最近、忙しいのかよ。あんま顔見せねえけど」
「うん……まあ、そこそこね」
「例のパーティさ、女性同伴じゃん? 誰のエスコートすんの?智也は」
「いや、まだ決めてないよ。祥、君は?」
祥悟はひとつ食べ終えて満足そうにコーヒーを啜ると、もうひとつ別の包みを取り上げて
「んー。里沙にしようかと思ってたけどな、アリサのやつがうるせーから」
祥悟の一言に、智也は思わず息をのんだ。
……アリサ?
「そ。あいつがさ、自分じゃないとヤダってうるせーの」
アリサ……。
例の件で危うく大スキャンダルになりかけた相手だ。
智也は、勝気そうな彼女の顔を思い浮かべた。
彼女の嘘のせいで、祥悟は社長に殴られ顔に怪我をして、謹慎処分になっていたのだ。
あの件は彼女が祥悟の気を引くためについた嘘で、本人同士が話し合って解決済みだと聞いていた。
だが、少なからず祥悟の仕事に悪い影響を及ぼしてしまった事件なのだ。
「アリサ……って、あの娘と……まだ付き合っているのかい? 祥」
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