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「……うるさいな」
祥悟が何かぼそっと呟いたが、頭に血がのぼっているせいか、よく聞こえない。
「祥。よく考えてみてくれ。もうあの娘とは」
「おまえさ、うるっさいっつの」
「……っ」
祥悟は、手に持った食べかけのマフィンを、箱の中にぽいっと投げ入れた。
「おまえ何、興奮してんのさ? 俺が誰とどう付き合おうが、おまえに関係あるわけ?」
「……祥、俺は」
「そういう頭ごなしの決めつけってさ、すっげえムカつくんだよね」
険しい表情だが、声音は穏やかだった。
ただ、全身からピリピリとしたオーラを放っている。
怒っている。
これは、祥悟の怒りの表現の中でも、特上級だ。
「あいつがどんなヤツか、おまえ知ってんの? アリサとおまえって、接点ねえじゃん」
智也は喘ぐように声を絞り出した。
「たしかに、俺は、あの娘のことをよくは知らないよ。でも祥、俺は君のことが」
「知らないならさ、そういう言い方すんなっつーの。俺、そういうのって気分悪いんだよね。おまえもおっさんや他の連中とおんなじかよ? 信じらんねえ。見損なったし」
祥悟は吐き捨てるようにそう言うと、ソファーから立ち上がった。
「祥 、ちが」
祥悟は背もたれにある上着を肩に引っ掛けると、ドスドスと足を踏み鳴らすようにしてドアに向かう。智也は慌てて立ち上がり、彼の後を追おうとした。
「そろそろ時間。俺、行くわ。マフィンありがと、智也。……美味かった」
「祥、」
追いすがる隙もなく、祥悟はドアを開けると出て行ってしまった。バタンっと激しい音をたてたドアが、彼の怒りの大きさを示している。
智也は、伸ばしかけた手を、力なくおろした。
遮断されてしまったのは、ドアではなく心だ。
膝から力が抜けて、そのままソファーにへたりこんだ。
……違う。そうじゃない。そうじゃないんだよ、祥。
さっきまでの興奮の反動が酷い。
自分が祥悟に伝えたかったのは、こんなことじゃない。こんな風に怒らせたかったわけじゃない。
自分で自分が情けなくて……全身から力が抜けた。ズルズルと床に身体が沈み込んでしまいそうだ。
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