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思いがけず、アリサの名前が祥悟の口から飛び出して、目の前が一瞬暗くなった。
あの娘とのことは、もうすっかり終わったと思っていたのに。
智也は、両手で自分の顔を覆った。
泣きたい気分だが、涙は出てこない。
ただ、もうどうしようもなく、哀しかった。
「智くん……」
遠慮がちに降ってきた声に、智也はのろのろと顔をあげた。
気を利かせて席を外してくれた瑞希が、いつのまにか控え室に戻って来ていた。
その、心配そうな表情で、瑞希がおそらく今戻って来たわけじゃないのだと悟る。
さっきの祥悟とのやり取りを、もしかしたら聞いていたのかもしれない。
「あ、あ……。瑞希くん、おかえり」
瑞希は少しもじもじしていたが、智也が座るソファーの端にちょこんと腰をおろした。
「智くん。僕……余計なこと、しちゃった?」
瑞希の声が沈んでいる。
違う。瑞希は悪くない。
自分が……間違えたのだ。
いくら祥悟のことが心配でも、あんな言い方をするべきじゃなかった。
冷静さを欠いてしまった自分が悪いのだ。
智也は、なるべく自然に見えるように努力して微笑みを作ると
「いいや。気を遣わせてしまって悪かったね、瑞希くん。ありがとう」
瑞希は尚も何か言いかけて、口をもごもごさせて諦めたように閉じた。
智也はほぉっと吐息をつくと
「さぁ、撮影再開だそうだ。そろそろスタジオに戻ろうか」
言いながら立ち上がる。
瑞希は座ったまま、じっとこちらを見上げて
「……うん」
小さく頷き、立ち上がった。
スタジオに戻ると、既に撮影は次のセットに進んでいた。智也は壁に寄り掛かって腕を組み、瑞希の隣で熱心に見学するフリをしていたが、祥悟の姿からはなるべく視線を外していた。
祥悟の方も、撮影が終わるまで、1度もこちらを見なかった。
自分からわざと作った彼との距離は、ほんのひとときだけ以前のように縮まって……そしてもっと遠くなってしまった気がした。
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