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食欲はなかったが、瑞希の為に帰り道で洋食屋に立ち寄った。店の中に入ってから、ここは以前、祥悟と一緒に来た場所だと思い出した。
瑞希はすっかり口数が減ってしまって、元気がなかった。それが自分のせいだと分かっているから、何か気分を変えるような話をしなければと思うのだが、どうしても気力がわかない。
ほとんど会話もなく食事を終えて、店を出て車に乗り込む。
車を発進させてしばらくした時、俯きがちだった瑞希が、顔をあげた。
「智くん、今日はありがとう。撮影見学、すっごく楽しかった」
自分よりこんな歳下の少年に、気遣わせてばかりいる自分が無性に恥ずかしい。智也が口をひらこうとすると
「あのね、智くん。僕……亨くんに、もう1回会ってみようって思うんだ」
「え?」
「このまま逃げてても、何も変わらない。僕ね、亨くんともう1度、ちゃんと話がしたい」
「瑞希くん。それはちょっと……賛成できないよ」
智也は、運転しながらチラチラと瑞希の表情を確認した。瑞希は妙に吹っ切れた表情をしている。
「うん。反対されるの、分かってる」
「気持ちは分かるけど、亨くんが君にしたことは、ひとつ間違えば……」
「うん。僕、死んでたかもしれないよね」
智也が濁した言葉を、瑞希はきっぱりと言い切って
「でもあれは、僕も悪かったんだ。僕が亨くんに安心させてあげなかったから。信じさせてあげられなかったから。だから亨くんは」
「だとしてもだ。そういう危険な考えになってしまうのは、亨くんの性格だよね? 今回は上手く話し合えても、また同じ状況になるかもしれない。君が助かったのはほとんど偶然だろう? もしまた」
瑞希は自分の両手をぎゅーっと握り締めて、激しく首を横に振った。
「違うんだ。そうじゃない。あれは……僕がそうしてって、言ったの。亨くんが悪いんじゃないんだ」
「え?」
智也は危うく信号を見落としそうになって、ブレーキを踏んだ。車が嫌な音をたてて、ラインぎりぎりで止まる。
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