見えない糸

24/33
前へ
/261ページ
次へ
智也は、はあっとため息をつくと、ハンドルを離して瑞希の方に向き直った。 「それは……どういうことだい? 君と無理心中みたいなことしようとしたのは、亨くんの方だろう?」 瑞希はちらっとこちらを見て目を伏せた。 「……僕が……亨くんを煽ったの。そんなに好きなら一緒に死ねるか?って」 「……っ」 智也は息をのんで、言葉を失った。 「売り言葉に買い言葉、だったんだと思う。亨くん、僕が裏切ったって思い込んでたから……すごく落ち込んでて……」 もしそれが本当ならば、瑞希から聞いていた話はだいぶ意味合いが違ってくる。 「でもっ、亨くん、僕を本当に殺そうなんて、きっと思ってなかった。首を締めてる手……すごい震えてたから。僕、僕は、こ、怖くなって、逃げ出したんだ。ちゃんと、冷静に話し合うべきだったのに、ぼ、僕は」 相手は瑞希よりかなりガタイのいい大学生だと聞いている。もしそんな状況になったら、まだ高校生の瑞希が、恐怖で怯えてしまっても不思議はない。 だが……その状況が本当ならば、亨という青年はどれほど苦しかっただろう。もしかしたら今も、罪の意識に苦しみ続けているかもしれない。 「瑞希くん。お母さんには、首を絞められたとは言わなかったんだよね? ただ、彼のアパートに連れて行かれて、連絡なしでずっと泊まっていたって言っただけだよね?」 「……ぅん……」 瑞希は泣いていた。俯いている彼の握り締めた手に、ぽたぽたと透明な雫がいくつも落ちていく。 「君はまだ、俺にキチンと話してくれてないね?瑞希くん。亨くんと君のことを。それじゃあ俺は、君を助けてあげられないよ」 マンションに戻って、とりあえず順番に風呂に入り、先に出た智也は瑞希の為にホットミルクをいれてやった。 車の中で1度中断していた話を、腰を落ち着けてゆっくり聞いてみる。 瑞希が話してくれた亨との経緯は、最初に聞いた内容と大筋では違いがなかった。ただ、車で打ち明けてくれた肝心の部分だけが、すっぽり抜けていたのだ。 「君が浮気しているっていうのは、亨くんの誤解だったのかな?」
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

248人が本棚に入れています
本棚に追加