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濡れて艷めく秋の日に
「え?タイアップ……ですか」
「そうだ。いや、厳密にはタイアップというよりコラボレーションだな。おまえが端役で出ているあのドラマのな、スポンサーからの意向だ。秋の新商品のモデルに、うちの祥悟が抜擢されたのだ」
智也は呆気に取られて、橘社長の顔をまじまじと見つめた。
「祥悟が?え、里沙ではなくて?いや、でもあのスポンサーは…」
橘はにやりと笑って
「私も同じことを聞き返したよ。何しろ女性ものの下着と化粧品だからな。だが今回は里沙ではなく祥悟を先方がご指名なのだ」
あのドラマのスポンサーは、最近急激に業績を伸ばして人気の女性下着のブランドだ。元々は化粧品メーカーで、最近は健康志向の食品業界にも多角展開をしていて話題だった。
たしかに、祥悟は里沙と双子モデルで売り出していた頃、女性向けの香水の仕事をしていたが、祥悟単体で女性用の下着というのは、予想外だった。
「そう…ですか。祥悟を……ご指名なんですか」
「あいつは元々、男性モデルとしては線が細い。だがあの中性的な容姿が、逆に男女問わず人気だからな。無難なことをやっていても宣伝効果は薄い。先方にもいろいろと狙いがあるのだろうな」
「で。その件で私が呼ばれたのは…」
「うん。おまえのドラマでの出番だが、もう撮影はほとんど済んでいるな?」
「あ。はい。後はラストのワンカットを撮るだけです」
橘は少し眉をしかめて腕を組むと
「その後のスケジュールに支障がないように調整するがな。祥悟の撮影に、おまえも参加してもらう」
重々しく言い渡された言葉に、智也はちょっと首を傾げた。
「私も……ですか」
「おまえはあのドラマに出演しているし、体格的にも祥悟との絡みにちょうどいいからな」
「絡む……って。一緒に撮影を?」
「メインはあくまでも祥悟だ。おまえはバーターだが……不満か?」
「あ、いえ。それは別に」
智也が慌てて首を横に振ると、橘は苦笑いを浮かべて
「おまえが一番ダメなところはな、真名瀬、その欲のなさだ。ここに所属して……もう何年になる?おまえもそろそろ、今後のことを考えるべきだな」
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