第1章 舞い降りた君

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そのままなんとなく押し切られて、何故か自分のマンションの部屋にいる。他にいろいろ候補をあげて抵抗を試みたが、どれも祥悟にあっさりと却下された。 ……まさかいきなり、お家デートって……。 物を増やすのは好きじゃないから、部屋は基本、散らかってはいない。いやむしろ、モデルルームか?と突っ込みたくなるくらい、何にもない部屋だ。 それでも、急な来客に、智也はそわそわしっぱなしだった。 そんな智也にはお構いなしに、祥悟はまっすぐリビングに向かっていってドアを開けた。 「うわーお。すっげーシンプル」 リビングに入るなり、祥悟が呆れたような声をあげた。 確かにシンプルかもしれない。生活に必要最低限のものしか置いてないのだ。5歳上の長兄が前に泊まりに来た時も「せめて客用の布団ぐらいは置いておけ」と苦笑いして、後日布団一式を送りつけてきたくらいだ。 「ごちゃごちゃしてるの、好きじゃないんだ」 する必要のない言い訳に、祥悟はくるっと振り返り 「いいじゃん。こういうの。なんかすっげー智也らしくってさ。俺は好きだな」 祥悟はさり気なく、またドキリとすることを言い放ち、すたすたと部屋の奥へ行ってしまった。 ……だから……心臓に悪いって。 ソファーにぽふんっと腰をおろして、まだキョロキョロと部屋中を見回している祥悟をその場に残し、智也はキッチンに向かった。 海外赴任で留守にしている伯父から間借りしているこの部屋は、もともと単身用ではない。キッチンも風呂やトイレも、智也1人で使うには充分過ぎる広さと機能性を備えている。 ……何か飲み物……あったかな。 伯父が置いていった黒い大きな冷蔵庫を開けてみるが、だだっ広い庫内には、ミネラルウォーターと缶ビール、つまみ用のチーズが数種類、それしかない。 智也は振り向いて、リビングのソファーで寛ぐ祥悟をちらっと見た。 ……ビール……はダメだし。お湯沸かしてもコーヒーぐらいしかないな。かといって、水だけっていうのは……。 すっかり舞い上がってしまって、途中コンビニで何か買うという発想もなかった。 祥悟があれほどの甘い物好きなら、なにかデザートもあった方がいいだろう。 ……よし。ちょっとコンビニ、行ってくるか。
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