濡れて艷めく秋の日に

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「祥、君、何そんなに怒って」 祥悟はふんっと鼻を鳴らしてこちらの言葉を遮ると 「いいからちょっと来いよ」 言いながら洗面所の奥に向かって歩き始めた。腕はがっちり掴まれたままだ。 「え?えっと、どうしたの、祥、」 祥悟が向かったのは、通路の一番奥の個室だった。呆気に取られたまま、ぐいぐい連れて行かれた智也は、個室のドアの前ではっとして足を踏ん張る。 「祥、ね、待って。どうして」 「いいからっ」 イライラした声にまた言葉を遮られる。 祥悟が何故そんなに怒っているのか、意味が分からない。というか、どうして個室に引っ張って行かれているのかも。 先に個室に入った祥悟に、両腕を掴まれて体重をかけられた。 「うわっ」 蓋が閉まった便座の上にどっかりと腰を下ろした祥悟。その上に、そのまま勢い余って覆い被さる形になる。つんのめりそうになって、焦って縋ってしまったのは祥悟の肩だった。 ムスッとした祥悟の綺麗な顔が、目の前にある。何か言おうと開きかけた智也の口に、伸び上がった祥悟の顔が迫った。 ……え……? 柔らかい感触。 これは……祥悟の唇だ。 するすると伸びてきた手が、頭の後ろに回る。 ぐいっと引き寄せられて、軽く触れただけの口づけが深くなる。しっとりと押し付けられた唇から、祥悟の体温が伝わってきた。 ただでさえ動揺していたところに、突然の祥悟からのキスを受けて、智也の頭の中は真っ白になった。 何が起きているのか、このしっとりと柔らかい感触が教えてくれるのに、それと思考が上手く結びつかない。 「…ん……っふ」 祥悟の微かな吐息が鼻先をくすぐる。 ぞわぞわっと甘い痺れが背中を走り抜けて、智也は思わず縋りついてしまった彼のシャツの肩を、ぎゅっと握り締めた。 ……ちょ、っと、待って。何、これ…… シャツを握り締めたまま、弱々しく押し返してみる。 そのわずかな抵抗すら許すまいというように、祥悟が首の後ろに回した手に力がこもる。 蠢く舌先で、強引に唇を割られた。歯列をなぞられ、上唇にちゅっと吸い付かれる。 「……っ」
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