濡れて艷めく秋の日に

5/24
前へ
/261ページ
次へ
智也は無意識に詰めていた息を吐き出すと、祥悟の細い肩に手を掛けた。 濡れた舌先が、ちろちろと唇を愛撫してくる。こんな挑発的な悪戯に、抗う自制心なんかあるはずがない。 会いたくて、会いたくて、何度も夢に見たのだ。 もう吹っ切れたんだと自分に言い聞かせ、騙していたのは自分の心だけだった。それすらも、騙しきれるわけなんかなかったのに。 会いたくて、触れたくて、眼差しを、言葉を、心を、重ねたくて、本当は気が狂いそうだった。 ちゅぷちゅぷと微かな水音がする。近すぎて焦点を結ばない祥悟の長い睫毛が、ふるると震えている。 智也は掴んだ肩をぐいっと引き寄せた。祥悟が小さく息をのみ、ちゅぱっと唇を離す。伏せていた睫毛が揺らめいて、ぱちっと開く。智也ははっと息をのみ、目を見開いた。 濡れて揺らめく、祥悟の猫のような瞳。夢で見たのよりも、何倍も美しく艶っぽい。 「祥……」 「喋んな。いいからもっと」 低い囁きに鋭く遮られ、唇に細い指先を押し当てられる。思わず口を開いて、その指先を舌で舐めた。 怒ったように細めていた祥悟の目が、一瞬大きくなり、楽しげに煌めいた。口の端をきゅっとあげて満足そうに微笑むと、両手でこちらの顔を包み込んでくる。 「舌、出して?」 操られるように舌をべーっと差し出す。祥悟の唇がすかさずそれを捕らえた。柔らかい唇に舌を包まれる。ゆっくりと抜き差しされて、身体の奥が熱く疼いた。 ……ああっ。もう……っ こんなセックスみたいなキスをされて、いったい何を我慢する必要がある? 「祥っ」 「んあっ」 智也はがばっと彼の身体を抱き寄せて、その悪戯な口づけの主導権を強引に奪い取った。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加