濡れて艷めく秋の日に

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無自覚な天使の残酷さに、智也はちょっとムッとして、顔の前でひらひらさせている祥悟の左手を払い除けた。フォークを差し出してきた右の手首を掴んで、ぐいっと引き寄せ 「いや、なんでもないよ」 フォークの先の肉にパクっと食いついた。 「お」 祥悟は一瞬びっくりしたように目を見張ったが、くすくすと笑い出し 「な?美味いだろ、そのソテー。香辛料が効いててさ」 「うん。美味いね。こっちのも食べてみるかい?」 こちらのプレートのメインは、ハーブのソースがかかった白身魚のソテーだ。 智也は一口大に切り分けてスプーンですくうと、祥悟の口の前に差し出した。祥悟は楽しげににやにやしながら、躊躇いもなくパクっと口に入れる。 まったく……。 真っ昼間の陽射しの降り注ぐ明るい店内で、男2人が臆面もなく食べさせあいっこしてる図なんて……痛いにも程がある。 そっと周りを窺うと、案の定、窓際の老夫婦と隣の席の主婦2人連れが、唖然とした顔でこちらを見ていた。目が合うと皆、さっと顔を逸らしたが、おそらく彼らに食後の面白ネタを提供してしまったに違いない。 「あ。美味い。やっぱ俺、そっちの方が好きかも」 「だったら皿ごと交換するかい?」 祥悟はふふんっと鼻で笑って首を振り 「いい。半分ずつ食えばいいし。な、そのパスタもちょうだい?」 そう言って当然のように口をあーんとしてくる。智也は内心ため息をつき、フォークに皿のパスタを巻き付けた。
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