第1章 舞い降りた君

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テキパキと脇の戸棚からタオルを取り出して、水に浸して絞ると、智也の頭をそっと押さえた。しばらくそうして冷やしてから、いったん外して、傷の具合を覗き込んでくる。 「うっわ。やっぱ傷になってんじゃん。智也、ちょっと立って。こっち来て」 祥悟は痛ましそうに顔を歪めると、腕を掴んで智也を促し、ダイニングテーブルへと向かった。椅子に腰をおろした智也に 「救急箱、ねえの?」 智也はなんだか呆然としてしまって、祥悟の顔をぼんやりと見つめた。 「え……あ、ああ。救急箱。あそこの食器棚。左下の扉開けて……」 祥悟はさっさと救急箱を取りに行くと、手際よく傷の手当をしてくれた。智也は大人しくされるままになりながら、祥悟のやることを黙って見つめていた。 ……びっくり……した……。 すごく意外だったのだ。 祥悟がこんなに甲斐甲斐しく、傷の手当てをしてくれるなんて。 いつもお姫様然として、姉の里沙や周りの人間に、あれこれと世話を焼かれているイメージが強かった。そういう姿が似合っていたから、こんなに手際良く自分の世話を焼いてくれるなんて、思っていなかった。 ……参ったな、俺。今日はサプライズが多すぎて、もう何がなんだか……。 ギャップ萌え……とでも言うのかもしれない。そもそも自分が勝手に思い描いていた先入観と、実際の祥悟が違っていただけなのだろうが、こういうのに自分はとことん弱いのだと気づいてしまった。 なんだか胸のところが……きゅんきゅんしている。 「まだ、痛えの?」 声をかけられて、はっとして顔をあげると、気遣わしげに自分を見下ろす祥悟と目が合った。 ……あ……ダメだ。きゅんきゅんだけじゃなくて、またこの辺がドキドキしてきた。 「……祥悟、くん……」 今、自分はどんな顔をしているんだろう。自分を見る祥悟の目に、戸惑いの色が滲んでいる気がするけど。 「な、に……? ……智也、おまえ、大丈夫かよ。打ちどころ、悪かったのか?」 智也はゆっくり首を横に振ると、怪訝な顔で何故か後ずさり始めた祥悟の肩を掴んで 「いい子だな、君は。……ありがとう」 言いながら、ぐいっと引き寄せ抱き締めた。 「はっ?ちょっ」
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