第1章 舞い降りた君

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驚く祥悟の身体を、更にぎゅーっと抱き締めて 「今まで誤解してた。ほんと、君はすごくいい子だ」 驚いて固まっていた祥悟の身体が、じたばたし始める。 「はぁ?おまえ、何言ってんの?つーか、離せよっ馬鹿力っ。気安く、触んなっ」 祥悟はソファーの上で、クッションを抱きかかえて、ずっとそっぽを向いている。 智也は、さっき思いっきり蹴りあげられて、まだ痛む脛をさすりながら 「飲まないの?紅茶。プリンも、あるけど」 遠慮がちに声を掛けてみた。 祥悟の肩がぴくんと震える。ゆっくりと振り向くその顔が、まだものすごく不機嫌そうだ。 「怖い顔、しないでよ。ごめんって言ってるだろう?」 祥悟はますます不信の眼差しで智也を睨みつけて 「あのさ。控え室でキスしたのってさ、ガチだろ?智也ってほんとにゲイなんじゃねーの?」 感激し過ぎて、可愛くて仕方なくて、ついうっかり抱き締めてしまった。さっきから否定しているのに、祥悟はまったく信じてくれない。 ……無理もないが。 「違うよ。さっきのは親愛の気持ち。俺、普通に女の子、好きだからね」 「んじゃ、両刀ってことじゃん。……別に、そんな必死に否定しなくていいし?それより智也」 祥悟は急に表情を変えると、クッションを放り出して、智也の方に身を乗り出してきた。 「あのさ、智也ってさ、初めて女抱いたのいつ?」 目をきらきらさせながら、身を乗り出した祥悟に、智也は頬を引き攣らせた。 ……うわ。いよいよ、きたか。 そもそも、今、祥悟がこの部屋にいるのは、喫茶室でこの話題になって、ひと目のある所でそういう話をしない、と窘めたからなのだ。 出来ればすこーんっと忘れてくれて欲しかったが、このやんちゃ猫は聞く気満々らしい。 ……弱ったな……。俺、実の兄貴とも、こっち方面の話ってしたことないんだけど。 「それ、聞いてどうするの?」 まずは少しだけ、抵抗してみる。 祥悟は怯む様子もなく 「え。いいじゃん、教えて?ってか、質問してんの、俺」 「いや、俺の体験談なんて、聞いても面白くないし、参考にもならないよ」 もうちょっと抵抗してみる。 祥悟は少し口を尖らせて 「んなの分かってるし?参考に、とか思ってねえもん」 ……あ……そ。じゃあ何故、俺にそれ聞くんだよ。
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