第1章 舞い降りた君

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思わずまじまじと彼の顔を見つめると、祥悟はまたぷいっと目を逸らし 「誰か1人を真剣に好きになるとか、うざいし超めんどくさい。いろんな娘と気楽に遊ぶ方が楽しいじゃん」 「ふーん……」 なんだか安易に余計なことは言えない気がして、智也は祥悟から目を逸らした。 さっきとは違う、嫌なドキドキに胸の奥がぎゅっと痛くなる。 『誰か1人を真剣に好きになるとか、うざいし超めんどくさい』 こんな言葉を淡々と口に出来るのは、真剣に恋をしたことがあるからなんじゃないのか? 祥悟の声音は、まだ恋を知らない子どもが、知ったかぶりで言っているのとは違う、妙に意味深な響きがあった。 ……ひょっとして……祥悟くん。君、誰かに辛い片想い、してるのかい? 口に出して聞いてみたい。でも聞いてはいけない気がする。 智也は言い出しかけた言葉をぐっと飲み込むと 「祥悟くん、パスタって好きかい?」 がらっと声をかけて、にこにこしながら問い掛けた。祥悟はこちらを見て、きょとんと首を傾げ 「は?なに、突然」 「さっき俺が台所でがたがたやってたのって、食事の用意だよ。そろそろお腹空いただろう?」 「智也って、料理出来るんだね」 祥悟は智也が準備したベーコンとほうれん草のパスタを食べながら、感心したように呟いた。 「いや、料理はほとんどしないよ。俺が作れるのはパスタだけ」 「ふうん。でも美味い」 「そうか、よかった。ね、祥悟くん、明日は仕事かい?」 「ん。午後から例の延びてた雑誌の撮影。あ、なあ、智也」 「ん?なんだい?」 「その、祥悟くんって止めねえ?なんかキモい。ムズムズする。呼び捨てでいいよ。俺も智也って言ってんじゃん」 智也は食事の手を止めて、祥悟を見た。 「そ……そうだね。じゃあ……祥悟?」 「ん~~。……祥、でいんじゃね?」 「……祥」 「うん。それでいいし。あ、この野菜ジュース、美味い」 祥悟はあっさりとそう答えて、また食べることに集中し始めたが、智也にしてみたらそれどころではない。 ……祥……。うわ。祥って呼んでいいのか。
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