第1章 舞い降りた君

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祥悟はあっという間に智也の残りのパスタを食べ終わると、 「多分、泊まんの無理。俺、枕変わると眠れないし?」 ……いや。君さっきソファーで寝てたけど。 すかさず心の中で突っ込んだのが、思わず顔に出ていたのだろう。祥悟はにやっと笑って 「嘘。俺さ、外泊は禁止なのな。うっさいんだよ、橘のおっさんが」 そう言って首を竦めた。 「俺が責任持って預かるって、連絡してあげるよ」 つい食い下がってしまった。祥悟はちろ……っと智也の顔を見て 「よく言うよ。おまえさっき、狼になりかけたじゃん」 ……う……。それを言われると困るんだけど。 祥悟はくくくっと笑って 「智也ってさ、いつもポーカーフェイスのくせに、意外と顔に出るんだね。新発見」 智也は祥悟の言葉に内心ドキリとして、自分の頬を両手で撫でた。 「そう?出てないよ。俺が今、何考えてるか、君は本当に分かるかい?」 2人は黙ってじっと見つめ合った。 心の奥を見通すような、祥悟の真っ直ぐな眼差しが少し怖い。出来れば目を逸らしてしまいたいのに、動けない。 ……平常心、平常心。もし今、俺の心を知られてしまったら、せっかく近づいた距離が前より遠くなる。 智也は必死に自分に言い聞かせ、揺らめきそうになる目に力を込めた。 「…………分かんない。俺、エスパーじゃないもん」 祥悟はテーブルに頬杖をついて、にやりと笑った。 ……危ない、危ない。 智也はふいっと目を逸らして立ち上がると 「祥。食後のデザート、食べるかい?プリン、冷やしておいたから」 「うん、もらう」 祥悟が自分を目で追っている視線をひしひし感じながら、智也はキッチンに向かった。 「ごちそうさま。俺、そろそろ帰るわ」 結構大きめのプリンアラモードをペロリと平らげると、祥悟はそう言って腰をあげた。さっさと荷物を取りにリビングに向かう祥悟を、智也は目で追った。 もう少し引き留めたいが、既に20時を回っている。そろそろ、お開きの時間だ。 「送っていくよ。待ってて。車、下にまわすから」 そう言って智也も立ち上がると、ソファーに脱ぎ捨てていたジャケットを羽織りながら、祥悟がくるっと振り返った。 「いい。俺、タクシー拾って帰るから。じゃあな、智也」 祥悟はにこっと笑って手を振ると、すたすたと玄関に向かった。
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