第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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智也はその日、朝からずっとそわそわと落ち着かない気分で一日を過ごしていた。 ……予約。あの店で良かったかな。あそこより志乃舞の方が、若い子向けのメニューだったかも。いや、でもあそこは半個室だから落ち着かないか。 ……あ。そもそも、あっさりしたものって、和食で良かったのかな。祥の好み、事務所の連中に聞いてからにすればよかったか? いやでも、どうしてそんなこと聞くんだって勘ぐられてもマズいし。 いや、別に勘ぐられないか。 ……そういえば、こないだ雑誌のインタビューで好きな食べ物の話をしてたよな。あの雑誌ってlikeraiだったかな?harnessの方か? でもどっちも家だ。取りに行ってる暇ないな。 午前中にあった撮影中も、こんな調子で気もそぞろにこなし、午後のイベントの打ち合わせとリハーサルも、若干上の空。 たかだか食事の約束に、ここまで舞い上がっている自分が笑えてくる。 イベント中は集中していたが、終わると大急ぎで控え室に戻って、携帯電話を確認した。 祥悟からの着信もメールも来ていない。 ……撮影、長引いたのかもな。この時間でまだ、連絡ないってことは。 沖縄で屋外ロケなら、天候にかなり左右されるだろう。一応チェックしていた天気予報は、昨日も今日も晴れだったが、遠出の撮影でスケジュールが予定より延びるのは、よくあることだ。 店の予約を入れた時点で、それはちゃんと覚悟していた。それでも、思った以上にガッカリしている自分に気づいて、智也ははぁっとため息をつき、椅子にどさっと腰をおろした。 ……仕方ないさ。もう2度とチャンスがないって訳じゃない。だいたい、期待しすぎなんだよ、俺は。祥はほんの気紛れで誘ってくれただけだ。もしかしたら……忘れてるかもしれないんだぞ。
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