第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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突然現れたこの天使は、周りの視線などお構いなしの様子だが、モデルをやっているということを抜きにしても、祥悟は目立つ存在なのだ。 本人は至って普通の格好をしているつもりだろうが、身体にぴったりした黒レザーの上下は、祥悟の中性的な容貌を強調していて、ちょっとひやひやするほど色っぽい。 ……っていうか……びっくりした……。 18時を20分ほど過ぎても、祥悟からは電話もメールも来なかった。やはり一昨日の食事のお誘いは、祥悟のほんの気紛れで、ひょっとするとすっかり忘れてしまっているのかもしれない。 智也は一人で舞い上がっていた自分に苦笑して、すっかり諦めきっていたのだ。 まさか祥悟が、自分のスケジュールを確認して、わざわざ来てくれるなんて、思ってもみなかった。 ……というか、これって腕組みだよな。うわぁ……。 ものすごくナチュラルに自分の腕にぶら下がって歩く祥悟。ぴったりとくっついた所から、彼の体温が伝わってきて、智也の心臓はドキドキ鳴りっぱなしだ。 ……ダメだ。のぼせそう……。 地に足が着かないふわふわした気分で、歩いて駅前のビルに辿り着いた。祥悟は腕をがっちり掴んだまま離してくれない。 「祥。手、離して。もう店につくよ」 智也が低い声で囁くと、祥悟はあっさりと腕を離し、店の入り口を興味津々に覗き込んだ。 智也はほっと胸を撫で下ろした。道ですれ違う人の視線がずっと痛かった。でもそれ以上に、ぴったりと密着した祥悟の身体の感触に、ドギマギしっぱなしだった。 興味津々でキョロキョロしている祥悟を促して、店内に入ると、予約した自分の名前を告げる。案内されて、奥の個室の座敷に向かった。 「へぇ……いい感じじゃん」 「うん。個室の方がゆっくり出来ると思って」 座卓を挟んで、祥吾と向かい合わせに座る。さっきまでは密着し過ぎて困ったが、いざ離れてしまうとなんだかちょっと物足りない。 ……カウンターで隣に座る方がよかったかな……。
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