第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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「あ。これ、美味そうっ」 祥悟は早速メニューを開くと、何を注文しようかと目を輝かせている。 「な、智也。なんかおススメとかあんの?」 ぼんやり考えながら祥悟に見とれていた智也は、はっとして 「え。あ、ああ。そうだね。ここは魚料理が美味しいよ。祥、好き嫌いはあるかい?」 祥悟はメニューから顔をあげ、じーっと智也を見つめて 「嫌いなものはホヤとレバー。それ以外なら基本食えるけど」 「じゃあ、この板前お推めコースがいいんじゃないかな」 智也が指さすページを見つめて 「んー。じゃあこれにする。智也は酒飲むの?」 祥悟が差し出すメニューを受け取って 「いや。今日はやめとく。駅前に車停めてるからね」 「車って智也の?」 「そうだよ。帰りは家まで送るから」 「ふうん……」 祥悟はテーブルに頬杖をつくと、智也をじっと見つめた。 「今日は俺、智也ん家には寄らないよ?」 智也は内心どきっとしながら、素知らぬ顔で微笑んで 「もちろん。君の家に直接送ってくつもりだけど」 「ふうん……」 何故か意味ありげに、自分を見つめている祥悟から目を逸らし、テーブルの上のブザーを押した。 「オーダーするよ。祥は飲み物、何にするの?」 「俺、水でいい。……あ、やっぱ烏龍茶がいいかな」 程なくやって来た店員に、注文をしている間も、黙ってじっと見つめてくる祥悟の、意味ありげな視線がやけに気になっていた。 店員が出ていくと、智也は祥悟の顔を見つめ返し 「どうしたの?俺の顔に何かついてる?」 にこっとしながら問い掛けてみる。祥悟は一瞬きょとんとしてから、悪戯っぽい顔になり 「うん。目と鼻と口」 「それ、当たり前だから」 智也の呆れたような返事に、祥悟はくすくす笑って 「智也ってさ、よく見るとかなり整った顔してるよね。なんてーの?和系の役者みたいな?和服とか超似合いそうじゃん」 ……やっぱり正面で向かい合うってキツイな。こんなじっと見られてると緊張する……。
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