第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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智也は引き攣りそうになる顔を抑えて、ふっと苦笑してみせて 「地味だろう?俺の顔。 社長の面接受けた時に一番に言われたよ。君は今の流行りの顔じゃないねって」 途端に祥悟が顔を顰めた。 「うっわ。何それ。あいつそんなこと言ったんだ?うっざ」 嫌そうにブス顔をしてみせる祥悟に、智也は思わず噴き出して 「そんな顔しない。美人が台無しだよ」 祥悟は自分の頬を、両手でぐにぃっと引っ張ってみせて 「こんな女顔より、智也のが全然いいじゃん。あのクソじじい、見る目ないっつーの」 「こーら。口悪いよ、くそじじいって。君の義理のお父さんなんだろ?」 「は?違うし。養子になったのは里沙だけ。俺はオマケだし?赤の他人じゃん」 「……そうか。でも新人発掘には定評がある凄い人だよ、社長は」 祥悟はふくれっ面で首を竦めて 「俺、あいつ、嫌い」 呟く祥悟の声に苦々しい響きが滲む。智也は眉を潜め、祥悟の表情をそっと窺った。 自分のことをオマケだと言い放つ祥悟は、やはり橘社長との関係に屈託があるのだろうか。 悩み事があるのなら、聞いてあげたい。でも、自分と祥悟の距離は、ほんの少し縮まったばかりだ。 「ね、祥。君は……」 「あーぁ。飯、まだかな。俺、腹減って死にそう」 智也の言葉を遮るように、祥悟はそう言ってふすまの方に目を向けた。智也は言いかけた言葉をそっと飲み込む。 ……余計なこと、聞かない方がいいのかな……。 智也は何も気づかないフリをして、話題を変えた。 「どうだった?沖縄は」 急に話題を変えた智也に、祥悟も特に気にする風でもなく、んーっと首を傾げて 「撮影ズレたせいで、スケジュールがキツキツ。折角沖縄まで行ったのにさ、海で遊んでる暇もないんだぜ」 「うん。とんぼ返りだったよね」 「撮影はさ、クライアントが連れてきたモデルの娘が、超絶わがまま。結構みんな振り回されてた。なんかよく知らねえけど、お偉いさんのお嬢さんなんだってさ」 「あー……なるほどな。それ、よくあるよね。でも撮影自体は無事に終わったんだろう?」 「まあね」
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