第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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「失礼致します」という声がしてふすまが開く。店員が飲み物と料理を運んできた。 「お。きた」 祥悟は嬉しそうに身を乗り出すと、テーブルに並べられていく器を覗き込む。 それからしばらくは、たいした話もせずに、次々と運ばれてくる料理を食べることに専念した。ホヤとレバー以外に好き嫌いはないと言った祥悟は、相変わらず痩せの大食いなのか、どの料理にも旺盛な食欲をみせていた。智也も箸を動かしながら、子どもみたいに楽しそうに食事をする祥悟をそっと見守っていた。 ひととおりコース料理を食べ終え、後は食後のデザートを残すのみになると、祥悟は何を思ったのか、突然立ち上がって、向かいに座る智也の隣にやって来て腰をおろした。 「……どうして、隣?」 「え?寂しいじゃん」 ……寂しい?……って。いやそれ、どういう意味で? そういえば、喫茶室でも当たり前のように、隣にくっついて座った。見かけに寄らず、甘えたがり……なのか。 「な、智也」 「なんだい?」 ぴとっとくっついてきた祥悟が、急に声を潜め、照れたように笑いながら囁いた。 ドキッとした。何だろう。何を言うつもりだ? なんだか訳が分からないが、期待と不安で変な汗が出そうだ。 「あのさ。昨夜、こないだ言ってたヒトがさ、ホテルの俺の部屋に来たんだよね」 ……!?!……え。こないだ言ってたヒト ……って誰だ?ホテルの部屋に夜中にって……。 智也は激しく動揺して、祥悟の顔をじっと見つめた。何か言おうとしても、言葉が出てこない。 祥悟は妙に艶っぽい流し目で、ふふっと思い出し笑いをすると 「こんな時間になんだよってドア開けたら、彼女でさ。入っていいかって聞くから、部屋ん中、入れちゃったんだよね」 ……!!ちょっ。ちょっと待て。彼女?それって。 「そ……それって……君に誘いかけてきたヒト?」 うっかり、痰が絡んだような変な声が出てしまった。 ……まずい。落ち着けって、俺 祥悟は不思議そうに一瞬目を見張ってから 「そ。そのヒトだよ」 事もなげに頷く。智也は思わず身を乗り出して 「それって、今回の撮影のスタッフってことだよね?」
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