第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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「可愛い、か。たしかに。惟杏さんはオンオフの切り替えがきっちりしてる人だよね」 祥悟は小首を傾げて 「ひょっとしてさ、智也。惟杏さんとヤったこと、ある?」 無邪気な祥悟。本当に罪作りな天使だ。智也はすいっと目を逸らして 「まあ、ね」 ヤったことがあるも何も、19の時の初体験の相手だったりする。 「うっわ。マジ?えーーー」 祥悟は叫んで仰け反ると、智也の腕をガシッと掴んだ。 「じゃあ、ひょっとしてさ、智也、あのヒトと付き合ってたりするわけ?」 ぎゅっと腕を掴まれて、ぴったりと密着された。 ……いや、本当にもう、誰かこの子を止めて欲しいんだけど。 「なあ、なあ、もしかして恋人とか言っちゃう?」 智也は若干やけくそ気味に、祥悟の身体を抱き寄せて 「そうだよ……って言ったら、どうするの?」 耳元に囁いてみた。祥悟は擽ったそうに身を捩り、智也の顔を睨みつけて 「はぁ?どうするって……」 「つまり君は、俺の彼女を寝取ったってこと、だろう?」 少し怒った顔をして祥悟の目を見つめると、祥悟はきゅーっと眉を顰めた。 「寝とってねーし! まだヤってないからっ」 「え……」 「キスしただけだし。あ、ちょっと触ったりはしたけどさぁ」 祥悟はぷーっと膨れっ面になった。 「や。俺はその気、あったけどさ。なんとなーく上手く、はぐらかされちゃった感じ?」 ……あ。そうなのか? ……じゃあまだ彼女とは。 「智也の彼女だって知ってたら、部屋になんか入れなかったし。だいたい、あっちから俺のとこに来たんだぜ? 俺、別に悪くないじゃん」 子どものような膨れっ面でぶつぶつ愚痴る祥悟に、智也はちょっとホッとして表情を和らげた。 「彼女じゃないよ。付き合ってなんかいない」 「へ?」 「1度だけ。それだけだよ。恋人だったことなんかない」 祥悟は一瞬きょとんとしてから、見る見る不機嫌な目になって 「……ムカつく。びっくりさせんな」 掴んでいた智也の腕を放して、胸に拳を突き出してきた。智也は苦笑いしながら、その手をパシっと受けると 「そうか。キスだけだったんだ?はぐらかされたってどんな風に?」
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