第1章 舞い降りた君

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社長が施設から見つけてきた双子の天使は、瞬く間に事務所の稼ぎ頭になった。 歳のわりに大人びた美貌と、まだ成熟しきってない華奢で伸びやかな体型。 最近は祥悟の方が背が高くなって、男女の違いが出てきたが、登録したては合わせ鏡のようにそっくりだった。 モデルは一見個性的で派手な職業という印象だが、スポンサーの要求に応じて、その商品の良さをアピールする、引き立て役に徹する自在さが求められる仕事だ。 この双子には着る服や装飾品によって、ガラッと印象を変える天性の柔軟さがあった。だから、どのブランドからも引っ張りだこになった。 雑誌やテレビでも取り上げられ、モデルというよりタレントのような扱いを受けている。 事務所では一年先輩だが、地味な仕事が多い智也とは雲泥の差だった。 智也はもともとこの仕事自体に、それほどの野心を抱いているわけではない。 3人兄弟の末っ子で、家業を継ぐ必要性もなく、学校を出てからふらふらと仕事を探していた時期に、街でスカウトされて始めた職業だった。 いずれなりたい自分の夢への、足掛かりぐらいの気持ちなのだ。 華やかで派手な活躍をする後輩を、羨む気持ちが全くなかったわけではない。 だが、生意気だけどどこか憎めない愛嬌のある祥悟を、智也は心密かに気に入っていた。 そんな智也の自分への好意に、祥悟も気づいているのだろう。ライバル意識の強い、事務所の他の仲間たちに比べると、心を許して、無邪気に慕ってくれている……気がする。 ……いや、慕われているというより、懐かれているって感じか。いや……なめられてるっていうのが正しいかもな。
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