第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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「あのさ。実地で教えるって、何すんのさ」 「女の子の愛し方」 「や。それじゃ、全然分かんねぇし。っていうか、それってこういうとこ入んないと、ダメなのかよ」 智也はうーんと首を捻って 「祥は、相手にバカにされるのは嫌だから、俺にキスを教えてって言ったよね?」 「う……まあ……言ったけど?」 「女性をこういうところに連れてくるのも、スマートに格好よくやりたいよね?」 「え……。うー。そりゃ、格好いい方がいいに決まってるじゃん」 「だから、まずはそこから練習だね」 当然と言わんばかりの智也に、祥悟は腑に落ちない様子でもう1度、ホテルの入り口をじっと見つめた。 ……むちゃくちゃ言ってるよなぁ……俺。 さっき祥悟は強がりを言っていたが、ラブホに入るのは、本当に初めてなのかもしれない。ませた言動はしていても、祥悟はまだ16歳になったばかりなのだ。そんな経験なんかなくて当たり前だろう。 さんざん振り回されていた祥悟に、仕返しをしたいわけじゃない。でも、戸惑っている彼の表情が可愛くて、ちょっと意地悪してみたくなる。 「怖いならやめとくかい?」 わざとにこっとしながらそう言うと、祥悟は案の定ムキになって 「はぁ?誰が怖いって言ったんだよ。別にいいぜ。……入る」 ちょっとやけくそ気味に宣言して、入り口に向かって歩き出した。 平然とした風を装ってはいるが、祥悟はホテルに入った瞬間からそわそわと落ち着かない様子で、興味津々に辺りを見回している。 見た目は普通のシティホテルだが、部屋の内装写真が並んでいるパネルに、従業員の顔が見えない受付。祥悟が仕事であちこち利用しているホテルとは、やはり勝手が違うのだろう。 「どの部屋がいい?」 パネルをしげしげと見比べている祥悟にそっと声を掛けると、少し驚いたように振り返って 「え……えーと。智也が選べよ。俺はどこでもいいし」 「そう。じゃあ……」 一番値段のいい落ち着いた雰囲気の部屋を選んでボタンを押すと、フロントに向かった。料金を払い、差し出された部屋のキーを受け取る間、祥悟は側にぴとっとくっついて、興味津々に智也のやることを、黙って見つめていた。 「5階だ。おいで」 エレベーターで5階まで行き、キーに書かれた番号の部屋に向かう。カード式のキーを差し込んでドアを開けると 「さ、入って」 祥悟は智也の顔をじっと見てから、先に部屋の中に入った。
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