第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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「全然、ふつーじゃん」 拍子抜けしたように祥悟がそう言って、早速、部屋中を探検し始めた。 トイレのドアを開け、風呂場を覗き込み、洗面スペースに置かれたアメニティグッズを手に取って眺めている。 ……やっぱりこういうところ、初めてだろ、君。 好奇心いっぱいの仔猫みたいに、キョロキョロと落ち着かない祥悟が、歳相応に子どもっぽくて、なんだか可愛くて仕方ない。 智也は上着を脱いでクローゼットのハンガーに掛けると、応接セットのソファーに腰をおろした。邪な誘惑に負けて、つい勢いで祥悟を連れてホテルに来てしまったけれど、さてどうしよう。 智也自身、実はラブホなんて利用することはない。ここはたまたま、さっき話に出ていた惟杏さんと、1度だけ来たことがあるから知っていただけだ。 祥悟には内緒だが、惟杏さんとの初体験には、トラウマレベルの苦い記憶しかない。 彼女に誘われて、このホテルに来た時、智也は初めてだと正直に告げた。惟杏さんは少し驚いた様子だったが、大丈夫だと微笑んで、不慣れな自分をリードしてくれた。 キスは気持ちよかった。今まで触れるだけのフレンチキスしかしたことがなかった自分に、彼女はゆっくりと時間をかけて、甘い濃厚なキスの仕方を教えてくれた。女性の身体の愛撫の仕方も、教えられるままにいろいろやってみた。 互いにいい感じに昂り、いよいよ……という時になって、智也は若干苦労しつつもどうにか彼女の中におさまった。彼女の中は温かくて柔らかかった。智也は喘ぐ彼女の身体にしがみつき、必死に腰を使った。 途中で何度も萎えてしまいそうになるのを、何とか誤魔化しながら……。 どうにか最後まで行為は終えたが、気持ち悪くて冷や汗が出そうだった。 そして思い知ったのだ。自分はきっと、こういうことに向いてないのだ、と。 青ざめて、事後の睦言もそこそこに、服を着てホテルを出た。 惟杏さんは優しくフォローしてくれて、初めてだったから仕方がないと慰めてくれたが、情けないやら恥ずかしいやら、彼女にも申し訳ないやらで、智也はその後、酷く落ち込んだ。
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