第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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「なに、してんだよ。触んな」 「まずは服を、脱がせるところからだよ。いいからじっとしてて」 脱衣場の大きな鏡の前で、智也は祥悟を後ろから抱き締めると、耳元に囁いた。 「ムードを高めるなら、こんな風に鏡の前で、まずはキスするといいかもね」 言いながら、祥悟の顎に手を当て自分の方を向かせると、じっと目を見つめた。祥悟は鏡が気になるらしく、ちらちらと目を泳がせている。 「目、閉じて」 少し甘く囁くと、祥悟はようやく視線を合わせ、まだ腑に落ちない顔のまま素直に目を閉じた。 ……うわ……綺麗だ……。 何度見てもため息が出るほど綺麗な顔が、自分の口づけを待って目を閉じている。 長い睫毛にビロードのような肌。 そして小さな紅い唇。 智也は自分の鼓動がドキドキと高鳴るのを感じながら、祥悟の両肩にそっと手を置いた。 「ん……っ」 唇ではなく、形の綺麗な鼻の頭にそっとキスをすると、予想外だったのか、少し驚いたようにぴくんっとした。続いて、つやつやとした頬に唇を滑らせ、長い睫毛にもそっとキスを落とす。 「……擽ったい。ひとの顔で遊ぶな」 祥悟がぱちっと目を開け、睨みつけてくる。智也はふふっと笑って 「キスは唇にして欲しい?」 「……違うし。なぁ、これってさ、焦らすテクってことかよ?」 「うーん。単に俺の趣味かな。相手の予想外の所にキスすると、びくってなるだろ? その反応が可愛いよね」 「ふーん……?」 祥悟は分かったような分からないような微妙な顔をして、また目を閉じた。 今度は唇にそっと触れるだけのキス。先日知った意外と柔らかい祥悟の唇の感触を、ちゅっちゅっと啄むようにしながら楽しんでみる。キスを重ねる度に、祥吾の紅い唇がうっすらと開いて、逃げる智也の唇を追うような動きをみせる。 ……なるほどね。これってやっぱり焦らしテクなのかな。 本当はひとに教えるほど、経験豊富なわけじゃない。単に自分のやってみたいことを、しているだけだ。
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