第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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浴室を出て脱衣場で身体を拭いてすぐ、智也は真っ直ぐにトイレに向かった。 個室に入ると、ほぉ……っと吐息を漏らし、完全に勃起してしまった自分のモノを握り締める。 好きな人がすぐそばにいて、しかも一緒にラブホに来ていて、独りでトイレでこれを処理するのは、なんともせつない。 でも、祥悟が自分に許してくれた行為の数々に、正直、感謝の気持ちしかない。 ……可愛かった……。 綺麗だった。すごく色っぽかった。 ああ。本当に愛しくて堪らない。 あの子が好きだ。大好きだ。 俺の初恋。憧れの人。 自分の手で扱きながら、智也は鼻の奥がツンと痛くなってきて、思わずぎゅっと目を瞑った。泣くつもりなんかなかったのに、目の端から涙がつーっと零れ落ちる。 目蓋に浮かぶのは、大好きな少年の笑顔。悪戯っぽく笑う顔も、きょとんとした顔も、拗ねた顔も、どの顔も愛おしい。 「祥……。祥……。祥……」 大切な人の名を、何度も小声で呼んでみる。 こんなにも人を好きになれるなんて、思わなかった。人を恋することが、こんなにも嬉しくて幸せで、苦しいってことを、自分は全然知らなかった。 重ねた唇の感触。甘やかな吐息。目元をうっすら染めた可愛らしい表情。華奢な身体。白くて滑らかな肌。つんと突き出した胸の尖り。綺麗な形のお尻。うっかり見えてしまった、彼の男の子の証。 智也は手の動きを速めた。 シャワーを浴びて出てきた祥悟が、部屋に自分がいないことを不審に思うかもしれない。 自然におさまるのを待っても良かったが、こんな状態でこれ以上彼と一緒にいたら、彼の望まないことを仕掛けてしまいそうで、自分が怖い。 大好きだからこそ、傷つけたくない。恋しい気持ちが叶わなくても、傍にいられるだけでいい。頼れる何でも話せる兄貴として、出来ればずっと、彼がほっと出来る場所でありたい。それだけで充分に、自分は幸せなのだから。 「……っく」 昂りが手の中で弾けて、白い飛沫がトイレの中に散った。 智也はしばらくはぁはぁと息を弾ませながら、高まりがおさまっていくのを待った。
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