第2章 波にも磯にもつかぬ恋

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驚く智也に、祥悟はちょっと照れたように笑って 「智也、俺の嫌がること、しねーじゃん。さっきだってさ、おまえがその気なら、風呂場でもっとすごいこと、出来ただろ? でもおまえ、止めて出てったじゃん。俺、あの後困ったんだからな。すっげー勃っちゃってさ。だから1人で風呂場でしたし」 ……う……わぁ……。 言いながらちょっと赤くなる祥悟の顔を、智也は呆然と見おろしていた。 なんてこと言い出すんだろう。 「俺がやだって言ったら、おまえ変なことしねえって、俺、信じてるから……。別にいいぜ」 ……どうしよう……。なんか……泣きそうだ。 智也の中で、いろいろな感情が複雑に沸き起こって、もう何をどう考えたらいいのか分からない。 なんだろう。この子のびっくりするような真っ直ぐな信頼は。 多分、祥悟は、周りにそうと見せているほど、扱いづらい子じゃないのだ。意外と単純で純粋で、驚くほど裏表がない。 生意気な言葉や行動が捻くれているように見えるから、もっと複雑でややこしい気がしてしまうだけ、なのだろう。 ……それにしても、参った……。 『智也なら、いいよ』 祥悟のこのセリフを聞くのは2回目だ。 あまり舞い上がり過ぎても、期待し過ぎてもいけないと、必死に自制してはいるが、2度もこんなことを言われると……果てしなく自分に都合のいい解釈をしてしまいそうになる。 「なに、笑ってんの、おまえ。ちぇっ……感じ悪いし」 自分は今、どんな顔をしているんだろう。 「笑ってないよ。ただ」 「ただ、なんだよ?」 ー君が可愛くて、愛しくて仕方ない。 智也はそう言いたいのをぐっと堪えて 「信じてくれていいよ。君が本当に嫌なこと、俺は絶対にしないから」 智也がそう言って微笑むと、祥悟は一瞬きょとんとしてから、にやっ……と共犯者めいた笑いを口の端に浮かべた。
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