第1章 舞い降りた君

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余計なところが反応してしまって、智也は焦って唇を離した。顔色を窺う暇もなく、祥悟は智也の腕を両手で掴んだまま、俯いてしまった。 ……しまったな。泣かせたか? 馬鹿じゃないか。ムキになって、大人にするような濃厚なキスを仕掛けてしまった。くそ。失敗だ。いくら生意気でも、祥悟はまだまだお子さまで……。 「祥……」 項垂れたまま肩を震わす頼りな気な様子に、智也が慌てて顔を覗き込もうとすると、祥悟がガバっと顔をあげた。 その目にショックの涙は……浮かんでいない。いや、ショックな顔すらしていない。というかむしろこれは……。 「……っ」 「ふうん……意外」 祥悟は泣いていなかった。というかむしろ笑っていた。 艶めいた黒目がちな瞳に、悪戯っぽい色を滲ませて、ひどく楽しげにくすくす笑っている。 唖然とする智也に、ぐいっと顔を近づけると、口の端をきゅっと釣り上げ 「キス、上手いんじゃん。智也ってさ、チェリーくんじゃなかったんだ?」 ……っ!?この……糞ガキっ。 目を煌めかせながら、艶然と微笑み、キスで濡れた自分の唇を指先でなぞって、小首を傾げる。まだ幼さの残る少女めいた顔に、妖しい色気の漂う、誘うような笑顔。 男なのか女なのか、子どもなのか大人なのか、そのちぐはぐでアンバランスな祥悟の表情に、智也の心臓がドキンっと跳ねた。 言い返しもせず固まっている智也に、祥悟はますます小悪魔めいた表情になり、唇が触れそうなほど顔を寄せてきて 「ね……もっと、キス、しよ。智也のキス、すっげー気持ちいいよ」
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