第1章 舞い降りた君

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唇が触れるぎりぎりまで、祥悟の顔が迫る。 「ねぇ」 さっき思わず貪ってしまった形のいい唇が、うっすらと開いて誘いかけてくる。 智也は甘い蜜に吸い寄せられるように、そっと唇を寄せた。 祥悟のつけているフレグランスがふわっと鼻を擽る。甘くてちょっぴりスパイシーな香り。祥悟の吐く息も甘い。 掠めるだけのキス。揶揄うように逸らされて、思わず追いかける。 智也は祥悟の肩をぐっと掴むと、その悪戯な獲物を深く味わおうとして…… ードンドンドンっ 「真名瀬くんっ、いる??」 突然、ドアが激しくノックされた。その向こうから、焦ったような声が聞こえてくる。 「真名瀬くんっ、そこに祥悟くん、いる?」 あの声は、祥悟のマネージャーだ。 智也は飛び上がって、祥悟の唇から目を逸らしてドアを見た。慌てて返事をしようとする智也の唇を、祥悟の指がすいっと塞ぐ。 「いないって、言って」 智也は笑いながら囁く祥悟の顔をぎろっと睨みつけ、覆い被さっていたその身体をぐいっと押しのけた。立ち上がって腕を掴み、奥の衣装ルームに引き摺るように連れて行く。中に押し込んで扉を閉めると、踵を返してドアの方に向かった。 ちょっと深呼吸して気持ちを落ち着けてから、内鍵を開けてドアを開ける。 「何ですか?」 智也の言葉に、マネージャーの飯倉が部屋の中を覗き込みながら 「ああ、ごめんね。真名瀬くん。こっちに祥悟、来てないかな?もうスタジオの方、みんなスタンバってるのに、あいついつの間にか消えちゃってさ」 「またですか。いや。こっちには来てないですよ」 飯倉はため息をつくと 「ったく~。どこ行ったんだろ。あの糞ガキっ」 ……ええ、たしかに糞ガキですよね。気持ち、分かりますよ。 智也は内心、飯倉に同意しつつ、ちらっと奥の衣装ルームを見た。今頃、その糞ガキはあの中でほくそ笑んでいるだろう。 「見かけたら連絡しますよ」 「ああ、ごめん。そうしてくれる?よろしくね」 飯倉はまた大きなため息をつくと、ばたばたと廊下を去っていった。
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