第3章.甘美な墓穴のその先に

4/7
前へ
/261ページ
次へ
祥悟の声のトーンが変わった。怒ってるというより……呆れてるような忌々しげにも聞こえるような声。 智也は、泣きたくなるのをぐっと堪えて、思い切って顔をあげた。 目が合って、ドキッとした。祥悟の顔に浮かんでるのは、怒りでも呆れでもなく、ちょっと不安そうな戸惑いの色だった。 「ごめ……」 「なあ? 我慢出来なくなっちまったの?」 こちらの言葉を遮って、祥悟が静かに問いかけてくる。 「え……」 「俺が触ったから、おまえ……興奮しちまったわけ?」 ……えっと……。なんだろう。言ってる意味がよくわからない。なんだか頭がぼーっとして…… 「ポカンとすんなよなー。俺がおまえの、弄ったりしたからさ、俺のこと、襲いたくなったのかって聞いてんの」 ……や。襲いたくなったっていうか……襲わないようにしようとしたら、ああなっちゃったっていうか……。 「祥、ごめん、俺……」 「あーっもう。謝るのはいいっつってんじゃん。そうじゃなくてさ、ちゃんと質問に答えろよ」 「そ……そうだね。君に、その、触られて、自制が……効かなくなってしまって……」 目を微妙に逸らしながら、しどろもどろの答えになる。 情けないくらい、声が掠れてしまった。 「ふーん……」 祥悟は納得いかない様子で、鼻を鳴らすと 「別に、怒ってねえし。……や、怒ってたけどさ、おまえの顔見たら、吹っ飛んだ」 「え……?」 意外な言葉に、慌てて真っ直ぐに彼の顔を見つめると、祥悟はなんだか苦笑いをしていた。 「つまりさ、俺のテクがよかったから、おまえ、辛抱効かなくなっちゃったってことだよな?」 ……テク? 「気持ちよかったんじゃん? 俺にされて」 「あ……ああ。そうだね」 途端に、祥悟は悪戯が成功した子どもみたいな顔で笑って 「んな、悄気た顔すんなよな、智也。俺に負けたからってさ」 ……え?負けたって……。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加