第3章.甘美な墓穴のその先に

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どうやら本当に、怒っても傷ついてもいないらしい。そのことには心底ほっとした。ほっとしすぎて、全身の力が一気に抜けそうなくらいだ。でも…… (……無邪気過ぎるよ、君は。 っていうか、ああ、ほんとうにもうっ。どうしてこんなに可愛いかなぁ) 怒って自分を突き飛ばして帰ってしまっても、おかしくない状況だったのだ。 嫌われて、もう二度と顔も合わせてくれない可能性だってあった。 祥悟は意外な順応性を見せてくれて、今回は傷ついたりしないで済んだかもしれない。 でも…… (……ごめんね。君の無知と素直さにつけ込んで、俺は酷い男だよな) こうして抱き締めてしまえば、その温もりをもっと深く味わいたいと欲が出る。どんなに傷つけまいとしても、君を欲しいという想いはどんどん膨れ上がってしまう。 こんなにも好きじゃなければ、もっと簡単に割り切れてしまうのかもしれない。 好きだからこそ……俺はもっと君に対して、大人の分別を持つべきなのかな。せめて君が、いろいろな経験を積んで、自分の判断で俺の手を取ってくれる日が来るまで……。 隣りで無邪気に寝息をたてている祥悟の顔を、智也はそっと横目で見つめていた。 あれから、もっとすごいテクを教えろと無茶振りしてくる祥悟を、宥めすかしてもう1度浴室に連れて行った。 シャワーを浴びて、スッキリした様子の祥悟は、こちらがシャワーを浴びている間に、ベッドに横になり、うとうとし始めていた。 智也がベッドに近づくと、眠そうな目を半分開けて 「もう、続きやんねーのかよ?」 不満そうに拗ねてみせたが、眠気の方が勝るのだろう。トロンとした表情の祥悟に、智也は優しく笑いかけて 「おやすみ。もう良い子は寝る時間だよ。また今度、もっといろいろ教えてあげるからね」 祥悟はむすっとした顔で、黙ってこちらを睨んでいたが 「ふん。良い子じゃねーし。つまんねーの」 吐き捨てるようにそう言うと、ぷいっと壁の方を向いて、布団を頭から被ってしまった。
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