第4章.君との距離感

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第4章.君との距離感

翌朝、智也は先に目を覚ました。隣りに眠る天使を起こさないように、じっと動かずに寝顔を見つめる。 目を開けてすぐ、飛び込んできた祥悟の寝顔に、思わず胸がときめいた。昨夜のことは夢じゃなかった。その証拠が目の前ですやすやと寝息をたてている。 同じベッドで人ひとり分空いた先に、愛しい人がいる。 この微妙な距離感が、どうしようもなくせつなくて甘い。 ふいに長い睫毛が震えて、きゅっと眉をしかめてから、ゆっくりと祥悟が目を開けた。 薔薇の蕾がふわっと花開くような光景に、息を飲んで見とれていたら、その薔薇が睨みつけてきた。 「おまえの視線、うざい。寝てても、突き刺さってくるし」 口を開くと、愛らしい天使も綺麗な薔薇も幻のように消えた。 智也は我に返り、思わず微笑んで 「おはよう。朝から元気だな、君は」 皮肉めいた智也の言葉を無視して、祥悟は両手をうーんっと伸ばして無邪気に欠伸をして 「おはよ。今、何時さ? 腹減ったかも」 智也はベッドヘッドに備え付けのデジタル時計に目をやった。 「7時20分だ。モーニングでも頼むかい?」 祥悟は天井を見つめてちょっと悩んでから 「もう続き、やんないんだよな? じゃ、ここじゃなくて外で食いたいかも」 「……わかった。じゃあシャワー浴びるかい?」 祥悟はこっちを見て、もの言いたげにじっと見つめてきた。智也がにこっと笑って首を傾げると、祥悟は何故か不機嫌そうに舌打ちして 「んー……そうする。智也、起こして」 言いながら両手を差し出してきた。智也は苦笑して身を起こすと、祥悟の両腕を掴んで抱き起こしてやる。抱えた彼の身体から、自分と同じボディソープの香りが、ふわっと鼻を擽って、その華奢な身体をぎゅっと抱き締めたくなった。 「ありがと」 祥悟はあっさりとこちらの手をふりほどき、ベッドから降りて、すたすたと浴室に行ってしまった。 大切で愛しいからこそ、昨夜、もう自分からは手を出さないと誓った。それは忘れていない。それでも、祥悟の些細な仕草や態度に、いちいちドキドキしてしまう自分がいる。 今、少しだけ触れることの出来た温もり。 智也はふう……っとため息をついて、するりと抜け出していった天使の残像を、残り香ごと、両手でぎゅっと抱き締めた。
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