第4章.君との距離感

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大急ぎで要件を済ませ、急いで廊下に戻る。 もしかしたら帰ってしまったかな?と思ったが、祥悟はつまらなそうな顔をして腕を組み、廊下の壁に寄り掛かっていた。 「ごめんね。お待たせ」 智也が歩み寄ると、祥悟はだるそうに身体を起こして 「どこ、行くのさ?」 「昼飯、まだだろう?」 祥悟はふんっと鼻を鳴らした。 ……まだご機嫌斜めらしい。 「奢るから付き合ってくれるかい?行ってみたい店があるんだけどね、1人じゃちょっと入りにくいんだよ」 祥悟は目をぱちぱちとさせた。 「……奢って……くれんの?」 「ああ」 祥悟はもう1度鼻を鳴らすと、仕方ないなぁとでも言いたげに首を竦め 「どうせ暇だからいいけど」 「ありがとう。じゃあ行こう」 智也がさっさとエレベーターの方に歩き出すと、祥悟は無言で後についてきた。 智也の少し離れた後ろを、祥悟は無言でついてくる。 1ヶ月前にかなり縮まったかと思った距離は、また少し遠くなっていた。 でもこちらの誘いに、不機嫌そうではあるが、あっさり応じてくれた。 そのことが……ちょっと嬉しい。 智也は、時折そっと後ろを見て、祥悟がちゃんとついてきてくれるか確かめながら、少しうきうきした気分で歩いていた。 事務所には来ていたが、今日は多分オフなのだろう。 祥悟は黒のタンクトップの上に、肩が少しずり落ちそうな大きさの淡いピンクのTシャツを着て、下は細身のダメージデニムを穿いている。 長めの髪の毛に華奢な体つきは中性的で、こういうラフな普段着姿は、仕事先で会う彼よりも、少し幼く見えた。まるで原宿辺りにたむろしている中高生のようだ。 横断歩道の手前で信号が赤になる。 1人でぶらつくように歩いていた祥悟が、ゆっくりと智也の隣りに並んだ。 「どこ……行くのさ」 さっきより声のトーンが柔らかくなっている。智也は彼に顔を向けて微笑んだ。 「○○町に新しくオープンしたお店だよ」 「は?じゃ、こっから結構遠いじゃん。歩いて行くのかよ」 「いや、地下鉄でね」 「ふうん……」 それっきり、祥悟はまた黙ってしまった。 信号が青に変わる。 歩き始めた自分の横を、今度は歩調を合わせて祥悟が歩く。 さっきより縮まった彼との距離が嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
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