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大急ぎで要件を済ませ、急いで廊下に戻る。
もしかしたら帰ってしまったかな?と思ったが、祥悟はつまらなそうな顔をして腕を組み、廊下の壁に寄り掛かっていた。
「ごめんね。お待たせ」
智也が歩み寄ると、祥悟はだるそうに身体を起こして
「どこ、行くのさ?」
「昼飯、まだだろう?」
祥悟はふんっと鼻を鳴らした。
……まだご機嫌斜めらしい。
「奢るから付き合ってくれるかい?行ってみたい店があるんだけどね、1人じゃちょっと入りにくいんだよ」
祥悟は目をぱちぱちとさせた。
「……奢って……くれんの?」
「ああ」
祥悟はもう1度鼻を鳴らすと、仕方ないなぁとでも言いたげに首を竦め
「どうせ暇だからいいけど」
「ありがとう。じゃあ行こう」
智也がさっさとエレベーターの方に歩き出すと、祥悟は無言で後についてきた。
智也の少し離れた後ろを、祥悟は無言でついてくる。
1ヶ月前にかなり縮まったかと思った距離は、また少し遠くなっていた。
でもこちらの誘いに、不機嫌そうではあるが、あっさり応じてくれた。
そのことが……ちょっと嬉しい。
智也は、時折そっと後ろを見て、祥悟がちゃんとついてきてくれるか確かめながら、少しうきうきした気分で歩いていた。
事務所には来ていたが、今日は多分オフなのだろう。
祥悟は黒のタンクトップの上に、肩が少しずり落ちそうな大きさの淡いピンクのTシャツを着て、下は細身のダメージデニムを穿いている。
長めの髪の毛に華奢な体つきは中性的で、こういうラフな普段着姿は、仕事先で会う彼よりも、少し幼く見えた。まるで原宿辺りにたむろしている中高生のようだ。
横断歩道の手前で信号が赤になる。
1人でぶらつくように歩いていた祥悟が、ゆっくりと智也の隣りに並んだ。
「どこ……行くのさ」
さっきより声のトーンが柔らかくなっている。智也は彼に顔を向けて微笑んだ。
「○○町に新しくオープンしたお店だよ」
「は?じゃ、こっから結構遠いじゃん。歩いて行くのかよ」
「いや、地下鉄でね」
「ふうん……」
それっきり、祥悟はまた黙ってしまった。
信号が青に変わる。
歩き始めた自分の横を、今度は歩調を合わせて祥悟が歩く。
さっきより縮まった彼との距離が嬉しくて、思わず頬が緩んだ。
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