247人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく黙々と歩いていたら、祥悟がふと思いついたように口を開いた。
「そこ、何食わせる店?」
「ん?ああ。フレンチ……かな」
「フレンチじゃさ、場違いじゃねえの? 俺、今日はこんな格好だけど?」
「大丈夫だよ。フランス料理って言っても、田舎の家庭料理らしいからね。そんなに気を張るようなお店じゃないらしい」
「……そっか」
地下鉄の階段を降りて、切符売り場で2人分買うと、祥悟に1枚差し出した。
「お腹、結構空いてるかい?」
「なんでさ」
「いや。そこね、料理もそこそこボリュームあるけど、デザートがかなり人気みたいだから」
渡された切符を見つめていた祥悟が、ひょいっと顔をあげる。
「……デザート?」
「うん。雑誌でたまたま見たんだけどね、君が好きそうなデザートがいろいろあったよ」
祥悟はまた目をぱちぱちとさせて
「俺、甘いもんは別腹。それにさ、今日は朝から何も食ってねーし」
そう呟く祥悟の表情が、かなり柔らかくなっていた。
恐らくは社長と何か揉めていたであろう彼のささくれ立った心が、少しでも和んでくれたのなら、頑張って誘った甲斐があったというものだ。
「そうか。それならよかった」
智也がほっとして笑いかけると、祥悟は何か言いたげに口を開いたが、結局何も言わずに、先に改札口に向かって歩いて行った。
最初のコメントを投稿しよう!