第4章.君との距離感

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「どう?美味しいかい?」 頼んだメニューを黙々と食べている祥悟に、恐る恐る声をかけると、祥悟はフォークを口元で止めて、顔をあげた。 「うん。美味い」 「朝は食べなかったの?」 「……用意してあったけど、学校遅刻しそうだったから食わなかった」 「……学校?……そうか、君、高校生だよね」 祥悟はフォークに刺した肉を、ぽいっと口に放り込んで咀嚼すると 「俺は別に行きたくないんだけどさ、高校ぐらいは出ておけってうるさいんだよ、おっさんが。でも出席日数全然足りてねえから、卒業は無理かもな」 「相変わらず、忙しそうだよね、仕事の方」 祥悟はグラスの水を豪快に煽ると 「ん~…まあね。最近、里沙が人気出ててさ。雑誌のモデルとかの仕事増えてんの。女性雑誌とかファッション誌とか、はっきり言ってあいつ単体でいけるじゃん。でも里沙の現場は、もれなく俺もおまけで連れて行かれるからさ。スケジュールきつきつで、正直身体、もたねえし」 「ふふ。おまけって。君にもオファーが来てるんだろう?」 祥悟はむすーっと膨れて 「おっさんが双子モデルの売り込みで必死。俺はそれ、嫌なんだけどさ」 「お姉さんと一緒は嫌かい?」 「……里沙と仕事すんのは嫌いじゃねーし。それにあいつって、とことん無防備だからさ。変なやつにちょっかいかけられねえように、見張ってないとさ」 智也は思わず微笑んで 「姉貴思いの優しい弟だな」 途端に祥悟は形のいい眉をきゅっと顰めた。 「ちぇっ。そんなんじゃねーし」 舌打ちして、またフォークで肉をつつく。 ……照れ隠しか。可愛いな。 最近、雑誌を見る度に、祥悟が喜びそうなデザートが豊富な店を、無意識にチェックしていた。次にいつ食事に誘えるかも、分からないのに。 だからこうして、食事に誘えたのが内心嬉しくて仕方がない。 餌付けのようにしてしか、彼との距離を縮められないのは、ちょっと情けないけれど。 ……出来れば……今日は連絡先を交換したいな。 事務所やマネージャーに聞けば、祥悟の連絡先は分かる。でもそれではちょっと味気ないのだ。お互いに連絡先を交換し合える。そういう風に距離を縮めてみたい。
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