第4章.君との距離感

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「俺さ、ガキの頃の夢、ひとつ叶ったかも」 「え?」 「こういうの、ちょっと夢だったんだよね。ケーキいっぱい乗ってるデザートプレート。雑誌とかで見てさ、大人になったら腹一杯食ってやるって思ってた」 「……そうか」 「でもさ、せっかく自分で稼げるようになったってのに、体型維持だ、お肌に悪いって、全然食わせてもらえねえし?」 祥悟はフォークに刺したケーキを幸せそうに見つめてから、ひょいっと智也の方に顔を向け 「ありがとな、智也」 そう言って、にこっと花のように笑った。 ……うわ。可愛い……。 この笑顔だ。これが見たくて、今日も祥悟をここに誘ったのだ。 智也は思わず頬がゆるみそうになって、口に力を入れた。 「そうか。喜んで貰えたなら、よかったよ」 智也はさりげなくフォークを置いて、祥悟の美味しい顔を眺めるのに徹することにした。これ以上無理に食べたら絶対に胸焼けする。 「おまえさ……」 「ん?なんだい?」 「聞かねーの?さっき事務所でさ……聞こえてたんだろ?」 祥悟はプリンの乗ったスプーンを口に運びながら、横目でちろっとこちらを見る。 祥悟が何のことを言ってるのかは分かっている。社長と揉めていた件だ。 もちろん、彼に関することだから、気にならないと言ったら嘘になる。でも、本人が自分で話してくれるまで、余計な詮索はしたくなかった。 「聞こえてたよ。でも、君の最後の怒鳴り声だけだ」 智也は慎重にそう言って、言葉をきった。祥悟はプリンを口に放り込むと、次のケーキをフォークでつつきながら 「ふうん……。あのさ、智也はどう思う?」 「何をだい?」 「撮影で遠出してさ。その日の撮影は全部終わったのな、無事に。でも日帰りはきついから、俺は現地で1泊したんだ。他のスタッフはその日帰りでさ。だからホテル代は自腹だったんだぜ。これってもう完全、プライベートだよな?」 「あー……うん、撮影が無事に終わって、君だけ残ったんだね?だったら仕事絡みじゃ……ないかな」 話の向かう方向が分からないから、智也は更に慎重に答えた。 「でさ。おっさんに怒られたわけ。勝手なことし過ぎるってさ」 ……え。それであの騒ぎ?それはちょっと……。
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