第4章.君との距離感

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「泊まるって、連絡しなかったのかい?」 「したよ。もちろん。無断外泊なんか、あの家来てから俺、1度もしたことねーし」 智也は首を傾げた。 「だったら何故、社長は君に怒ったんだろう。……怒られたんだよね?君」 「そ。わざわざ休みの日に呼びつけてさ。意味わかんねぇ」 智也は腕組みをしてちょっと考え込んだ。 社長はワンマンで、確かに厳しい言い方をすることもあるが、基本的に筋の通らない理不尽な怒りをぶつけられたことはない。 「他に何か社長を怒らせるようなこと、しなかったの?」 智也はさり気ない感じで聞いてみて、そっと祥悟の横顔を横目で見る。 祥悟は生クリームたっぷりのケーキをフォークで切り分けて 「んー……他にって……まあ、ないこともないけどさ。……言ったら智也も……怒るじゃん?」 祥悟のちょっと歯切れの悪い言い方に、智也は眉を顰めた。 「……怒る?俺が?」 そっと穏やかに聞いてみる。祥悟はケーキをぽいっと口に放り込んで幸せそうに微笑むと 「んー。あのさ、椎杏さんさ」 ……え……? 「一緒だったんだよね。その日、ホテルで」 「……」 智也は思わず祥悟の方に身体ごと向いた。 ……一緒って……同じ部屋に……いたってこと? 智也に見つめられて、祥悟はバツの悪そうな顔になり 「おまえも怒るんなら……続き話してやんねーし」 口を尖らせる祥悟に、智也ははっとして表情を和らげた。 おそらく、無意識に怖い顔をしてしまっていたのだ。 「怒ったりしないよ。話して?」 言いながら、胸の奥が冷たくなっていく。 祥悟は、口の周りについた生クリームをぺろっと舐めてから、智也に身体を寄せてきて 「なあ、聞きたい?」 上目遣いで顔を覗き込んでくる祥悟の目が「話したい」と訴えていて、智也はちょっと絶望的な気分になった。 この嬉しそうな様子だと、1ヶ月前に自分が教えてしまったことの成果を、報告してくれるつもりなんだろう。 ……その話、俺に聞きたいって?……残酷だよね……君は。 分かっている。祥悟は悪くない。 いずれこうなることは目に見えていた。自業自得なのだ。 あの甘美な一夜の為に、自分が差し出した、これは代償だ。
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