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「泊まるって、連絡しなかったのかい?」
「したよ。もちろん。無断外泊なんか、あの家来てから俺、1度もしたことねーし」
智也は首を傾げた。
「だったら何故、社長は君に怒ったんだろう。……怒られたんだよね?君」
「そ。わざわざ休みの日に呼びつけてさ。意味わかんねぇ」
智也は腕組みをしてちょっと考え込んだ。
社長はワンマンで、確かに厳しい言い方をすることもあるが、基本的に筋の通らない理不尽な怒りをぶつけられたことはない。
「他に何か社長を怒らせるようなこと、しなかったの?」
智也はさり気ない感じで聞いてみて、そっと祥悟の横顔を横目で見る。
祥悟は生クリームたっぷりのケーキをフォークで切り分けて
「んー……他にって……まあ、ないこともないけどさ。……言ったら智也も……怒るじゃん?」
祥悟のちょっと歯切れの悪い言い方に、智也は眉を顰めた。
「……怒る?俺が?」
そっと穏やかに聞いてみる。祥悟はケーキをぽいっと口に放り込んで幸せそうに微笑むと
「んー。あのさ、椎杏さんさ」
……え……?
「一緒だったんだよね。その日、ホテルで」
「……」
智也は思わず祥悟の方に身体ごと向いた。
……一緒って……同じ部屋に……いたってこと?
智也に見つめられて、祥悟はバツの悪そうな顔になり
「おまえも怒るんなら……続き話してやんねーし」
口を尖らせる祥悟に、智也ははっとして表情を和らげた。
おそらく、無意識に怖い顔をしてしまっていたのだ。
「怒ったりしないよ。話して?」
言いながら、胸の奥が冷たくなっていく。
祥悟は、口の周りについた生クリームをぺろっと舐めてから、智也に身体を寄せてきて
「なあ、聞きたい?」
上目遣いで顔を覗き込んでくる祥悟の目が「話したい」と訴えていて、智也はちょっと絶望的な気分になった。
この嬉しそうな様子だと、1ヶ月前に自分が教えてしまったことの成果を、報告してくれるつもりなんだろう。
……その話、俺に聞きたいって?……残酷だよね……君は。
分かっている。祥悟は悪くない。
いずれこうなることは目に見えていた。自業自得なのだ。
あの甘美な一夜の為に、自分が差し出した、これは代償だ。
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