第4章.君との距離感

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智也は内心の動揺を顔に出さないように、必死でポーカーフェイスを作り 「なるほどね。彼女と……上手くいったのかい?」 本当は泣きそうだ。声が震えてしまいそうだった。でもすべて飲み込む。この無邪気で残酷な天使の為に。 智也の受け答えに満足したのだろう。祥悟はふふ……っと共犯者めいた目をして笑って 「ん。ありがと。智也のおかげでさ、ばっちり」 ……ばっちり……。 何が?……と問うまでもない。つまりは……そういうことだ。 ミルクを舐めて満足しきった仔猫のような祥悟の顔が、目の端に映って、胸が苦しくなった。 智也は震える指先でカップを持ち上げ、苦いブラックコーヒーを啜った。 「そうか。じゃあ少しは……役に立ったんだね、この間のこと」 口の中の甘ったるさは消えていた。このコーヒーは苦すぎる。 「おまえさ、やっぱすごいのな。俺、ちょっと尊敬した。あん時おまえに教わったことさ、全部試して……」 「ストップ。祥。ここでこれ以上、その話はダメだよ。誰が聞いてるか、分からないからね」 言葉が機械的に零れ落ちた。 ……そう。君の話を聞きたくないんじゃないんだ。誰が聞いてるか分からないから。それだけだ。 話の腰を折られ、祥悟が黙り込む。探るように自分の横顔を見つめている祥悟が目の端に見えて、智也はいっそう穏やかな笑みを浮かべた。 祥悟は小さく鼻を鳴らし、智也からデザートプレートに視線を戻すと、何もなかったような顔で、しばらく黙々と残りのケーキを食べていた。 「なあ、これ、おまえもう食わないの?」 ぼんやりしていた智也は、祥悟の指差すケーキの残りを見て 「あ……ああ。これ以上は無理かな。祥、よかったら君が」 「無理。さっきつついてみたけど、洋酒きつくて食えねえし」 「そうか……。君の分のケーキもまだ残ってるよね」 「残り、持ち帰りにしてもらうからいい。そろそろ帰るし」 「え……」 智也は、はっとして祥悟の顔を見た。 「帰るの?」 祥悟は無表情で頷くと 「さすがに食いすぎたし」 そう言ってお腹をさすりながら苦笑して 「な、出よう?少し歩いて消化したいし」 ちょっと皮肉めいた、いつもの笑顔を浮かべる祥悟に、智也は無言で頷いて、店員に合図を送った。
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