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智也は内心の動揺を顔に出さないように、必死でポーカーフェイスを作り
「なるほどね。彼女と……上手くいったのかい?」
本当は泣きそうだ。声が震えてしまいそうだった。でもすべて飲み込む。この無邪気で残酷な天使の為に。
智也の受け答えに満足したのだろう。祥悟はふふ……っと共犯者めいた目をして笑って
「ん。ありがと。智也のおかげでさ、ばっちり」
……ばっちり……。
何が?……と問うまでもない。つまりは……そういうことだ。
ミルクを舐めて満足しきった仔猫のような祥悟の顔が、目の端に映って、胸が苦しくなった。
智也は震える指先でカップを持ち上げ、苦いブラックコーヒーを啜った。
「そうか。じゃあ少しは……役に立ったんだね、この間のこと」
口の中の甘ったるさは消えていた。このコーヒーは苦すぎる。
「おまえさ、やっぱすごいのな。俺、ちょっと尊敬した。あん時おまえに教わったことさ、全部試して……」
「ストップ。祥。ここでこれ以上、その話はダメだよ。誰が聞いてるか、分からないからね」
言葉が機械的に零れ落ちた。
……そう。君の話を聞きたくないんじゃないんだ。誰が聞いてるか分からないから。それだけだ。
話の腰を折られ、祥悟が黙り込む。探るように自分の横顔を見つめている祥悟が目の端に見えて、智也はいっそう穏やかな笑みを浮かべた。
祥悟は小さく鼻を鳴らし、智也からデザートプレートに視線を戻すと、何もなかったような顔で、しばらく黙々と残りのケーキを食べていた。
「なあ、これ、おまえもう食わないの?」
ぼんやりしていた智也は、祥悟の指差すケーキの残りを見て
「あ……ああ。これ以上は無理かな。祥、よかったら君が」
「無理。さっきつついてみたけど、洋酒きつくて食えねえし」
「そうか……。君の分のケーキもまだ残ってるよね」
「残り、持ち帰りにしてもらうからいい。そろそろ帰るし」
「え……」
智也は、はっとして祥悟の顔を見た。
「帰るの?」
祥悟は無表情で頷くと
「さすがに食いすぎたし」
そう言ってお腹をさすりながら苦笑して
「な、出よう?少し歩いて消化したいし」
ちょっと皮肉めいた、いつもの笑顔を浮かべる祥悟に、智也は無言で頷いて、店員に合図を送った。
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