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「祥。事務所の近くまで一緒に行くなら、車で送っていくよ?」
前を歩く祥悟は、真っ直ぐに地下鉄の駅に向かっている。
祥悟を店に連れて行く間、あんなにも軽やかだった足取りが、自分でも情けないくらい重くなっていた。
大好きだから、大切だからこそ、彼の成長を見守りたい。そう心に誓ったはずなのに、この程度のことでこんなにも落ち込むなんて……。
智也の誘いかけに祥悟は足を止め、くるっと後ろを振り返った。
「今日、おまえ、車?」
「うん。事務所の近くの駐車場だよ」
「この後、予定ねえの?」
「今日は1日フリーだよ。明日の仕事は午後からだ。君は?」
「俺も今日は休みって言ったじゃん。じゃあさ、どっかドライブ連れてってくれる?」
思いがけない祥悟からのリクエストに、智也はちょっと目を見張って
「あ、ああ、もちろんいいよ。どこに行きたい?」
「別にどこでも」
「行きたい店とか、ある?」
祥悟はちょっと遠くを見つめるような目をして
「街中は嫌だ。どっか……広いとこ。あ。海、見たいかも」
「海か。わかった」
駐車場で車に乗り込むと、智也は助手席にいる祥悟をちらっと見た。
食事だけでもう帰ってしまうのだと思っていたが、天使の気まぐれはまだ続いてくれるらしい。
……俺も現金だよな……。
さっきの彼の告白に、椎杏さんと祥悟のリアルな想像が浮かんでしまって急降下した気分が、一緒にドライブに行けるとなって、またもや浮上してきている。
……この子といると、俺の心はジェットコースターみたいだ。
この間の逢瀬の時だってそうだ。
浮いたり沈んだり、振り回されっぱなしだった。
それでも、一緒に居られるのが嬉しくて仕方ないんだから、恋ってやつは厄介だと思う。
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