第二章 鬼灯村の秘密

20/20
192人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
確かに、人間同士だって争っている。平和な日本ではあまりわからないが、世界各国では、未だに民族同士の紛争が絶えないところだって多くあるのだ。 同じ種族だって争うのに、違う種族が争わずに手を取り合うのはきっと、すごく難しいことなのだろう。 永遠に分かり合えないかもしれない。 そう思うと、柚貴は胸が小さく疼くのを感じた。 「そうか、残念だ」 つい声が暗くなってしまった。 心配そうに見詰めてくる時雨、聖、武人の視線に気付き、柚貴は無理に明るい顔をつくった。 「それにしても時雨、よく俺の考えていることが解ったな。手品みたいだな」 「まあね。俺様は読心術が得意でね。それにね、柚貴は顔に思っていることがちゃあんと顔に書いてあるから、すっごくわかりやすいよ。素直なんだね。ババ抜きとか苦手でしょ?」 「……時雨、それって、誉めているのか?それとも単純馬鹿だとでも言いたいのか?」 「めっそうもない。誉めてんに決まってんでしょ」  真面目な顔をしていたかと思えば、またふざけたような笑みを浮かべて時雨は笑った。 励まされていると思うのは、自意識過剰なのだろうか。 柚貴は確かめるように時雨を見る。しかし、飄々とした彼の顔からは何も読みとれなかった。 時雨は柚貴の肩に置いていた手をのけて、頭の後ろで組むと、ゆっくりとした足取りで歩き出した。 「この森に長居は無用だよ。さっきも言ったけど、一ヶ所に留まるのは危険だからね。さあさあ、鬼灯村を巡るツアーに繰り出そうじゃないの」 からりとした時雨の声にひっぱられるように、柚貴たちも明るい声を上げる。 「そうだな。それじゃあ、案内よろしく頼む、時雨」 「とびっきりエキサイティングなところに案内しろよ、時雨。オレは観光にはちょいとばかし口煩いぜ」 「はははっ、まあ任せといてよ。俺様は物知りだからね。鬼灯村でも選りすぐりの場所を案内したげるよ」 「楽しみだねぇ~」  四人は森を抜けて、村の方へと歩き出した。 その足取りは、逃亡者と逃亡幇助者とはとても思えない軽快さだった。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!