第一章 九州地獄めぐり

36/63
183人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
柚貴の様子に気付いた聖が、眉を顰めて柚貴の顔を覗き込んだ。 「オイ、どうしたんだよ、柚貴」 「しっ、何か聞こえないか?」 「あぁ?何かって何だよ?何も聞こえねーぜ」 「いや、微かだが確かに音がする。金属が擦れ合う様な音と、それよりもっと小さな呻く様な声だ。向こうの方から聞こえてきる」 聖は柚貴が指差す方向へ聴覚と視覚を巡らせる。だが、柚貴のいうような音は聞こえないし、視界にはただ黒い森が広がるばかりだった。 首を傾げる聖を放置し、柚貴は見通しのいい木の上に登った。 「どうしちゃったの?柚貴のやつ」 「さあな。アイツ感覚は動物並だからな。なんか聞こえたとか言ってたぜ」 「なにが聞こえたんだろ?ねえ、聖は聞こえる?」 「なんも聞こえねぇよ」 聖と武人は柚貴の唐突なアクションを訝しがっていた。 柚貴は白い目を向けられていることなど露ほども気にせず、音の正体を探ろうと遠くを見詰めた。 音の正体が何かわかった柚貴は、聖と武人のすぐ傍に飛び降りた。 「何か見えたか?柚貴」 不思議がる聖に柚貴は大きく頷き返す。 「ああ、見えた。ちょっと行ってくる。すぐ戻ってくるから二人は待っていてくれ」 「なっ、オイッ、待てよっ!」 聖がとめるのも聞かずに、柚貴は突っ走っていった。 とり残された聖と武人は二人そろってやれやれと肩を竦めると、柚貴の後を追って走り出した。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!