きっかけ

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きっかけ

濃い緑の香りが立花進の胸いっぱいに広がり、乗っているバスの窓からは数年ぶりに帰ってきた故郷の風が入ってくる。見渡す限り木ばかり、その途中にコンビニはおろか小さな喫茶店すらなかった。立ち並ぶ数えきれないほどの樹木が視界を遮り、遠くまで見ることもできないとなると、人が踏み入ることを許されていない地のような印象すら受ける。だが進はこの近くで生まれ、そしてここを出てきた。 地元に帰ってきたのは何年ぶりになるだろう、見渡しても畑しかない、そんな外の世界と隔離でもされたのではないかといった錯覚を覚える村だった。村から自由に行き来もできるが、好き好んでこのような場所に来る観光客など見たこともなかった。何より立地が封鎖した空間を生み出している。子供の足ではとてもじゃないが隣の町に行くことさえできない距離と、そして山が立ちはだかっていた。小学生まではこの村が進にとっての世界の全てだった。     
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