きっかけ

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進はこの村に生まれ、何の疑問を抱くこともなく成長していき、両親の農業を継ぎ、この村に骨を埋めるといった道もひょっとしたらあったのかもしれない。そんな一つの可能性を変えたのは一台のスマートホンだった。いくらドがつく田舎と言っても電波は届いている。小学生の頃はそれほど必要となることもなかった、何よりも村人どうしで顔を知らないものはいないというくらいに狭かっただけに、連絡手段としての必要性があまりないのだ。だが中学にもなると行動範囲が広がっていく、身体的な能力の向上もある。万が一のことを考え親は進に携帯を買い与えることにした。そしてそれは畑仕事をよく手伝ってくれる進に対する、親心から来たものだった。そのスマートホンで進が家事を手伝わなくなったりといったことはなかった。しかし中学生に渡されたネットという世界へのつながりは、小さな村の中で燻っている人間に火をつけるのには十分過ぎる影響力があった。 ここにはいない遠くの人間とつながることができた、いろんなことを知ることができた。代り映えのない景色が続くこの村が、だんだんと窮屈に思うようになるのは時間の問題だった。手元あふれてくる情報は未知にあふれていた。世界を通して知った都会の生活に日に日に期待が膨らんで行った結果、進は将来的にこの村を出ることを決意する。 高校を出るのと同時に一人暮らしをするようになった。両親は進が村を出るのをあまり良しとしていなかった、それでも強いし意を見せる進にいくつかの条件を付ける、生活費だけは自分で出すことを条件に出すといったこともその一つだった。村ではアルバイトもできないような環境にある、進がそういったことで諦めてくるのだろうと考えたのか、しかしその程度で止まるものではなかった。 高校大学と進学するにつれ進はこの地元から遠く離れるようになっていく。幸か不幸か母方の親類が進の生活圏の近くにあったこともあり、両親への顔見せの意味も兼ねてその家で全ての事を済ませていった。本当に長い事実家に帰ることなく、それは帰る事を拒否されているかのようでもあった。     
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